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開発の現場から vol.12 トヨタ 新スポーツカーブランド「GR」

開発現場から聞こえてきたリアルな声から、現代の自動車が抱える問題のヒントや未来への展望を伺う。

今回は、トヨタが立ち上げた新スポーツカーブランド「GAZOO Racing」開発部門のキーパーソンに登場してもらい、新型車開発にかけた想いを語ってもらう。

レーシングチームが不退転の決意で取り組む 継続的なモータースポーツ活動 2017.9.28

トヨタは2017年9月19日に新スポーツカーブランド「GR」を発表し、9車種11モデルをGRブランドとして投入する計画を明らかにした。「GR」を手がけるのは、トヨタの社内カンパニーのひとつである「GAZOO Racing Company」(以下GR)だ。トヨタは、2016年4月に社内を製品群別に分割する「カンパニー制」を導入したが、「GR」はそれらのなかでもっともコンパクトな組織だ。だが、その小さな組織が目指す頂はとても高く、なおかつ前人未到の領域となる。
この「GR」の取り組みがユニークなのは、単なる市販車の高性能ラインをブランディングするということにとどまらず、モータースポーツ活動を行うレーシングチームがそのまま市販スポーツカーの開発に携わるという仕組みにある。モータースポーツは極めてプロフェッショナリズムの高い分野であるが、その役割はプロモーション的なものであるという捉え方をされがちであり、それゆえに活動が景気の動向に左右されてしまう側面があった。しかし、「GR」では、戦いの現場でひととクルマを鍛え上げ、その知見をもって魅力的な市販車づくりを行い、そこへさらに様々な形のユーザー支援を結びつけることでファンとの絆づくりを形成、最終的にレース活動とスポーツカーづくりを持続可能なビジネスとして成り立たせることを目標としている。

「GR」は、レーシングチームとしてWRC(世界ラリー選手権)やWEC(世界耐久選手権)を頂点とするモータースポーツの現場でライバルと競いながら、同時にスポーツカービジネスにおいても新境地に切り込んでいく。トヨタの「もっといいクルマづくり」における最前線というわけだ。
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2017年9月のローンチでは、9車種11モデルでの展開を発表。

市販車の「GR」ブランドでは、商品をまるでモータースポーツのクラス分けのようにカテゴライズしている。究極のスポーツモデルとして台数限定販売される「GRMN」、本格スポーツモデルの「GR」、エントリースポーツモデルの「GR SPORT」、そしてアフターパーツである「GR PARTS」だ。

今回、ヴィッツGRMNを含めた11モデルをサーキットで試乗する機会があり、開発を取りまとめたGR開発統括部 ZR主幹 佐々木良典氏に話しを伺うことができた。
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トヨタ GAZOO Racing Company GR開発統括部 ZR主幹 佐々木良典氏

ーー:WRC(世界ラリー選手権)でヤリスWRC(ヴィッツの欧州名)が18年ぶりに優勝するなど活躍していることもあり、新型ヴィッツGRMN(2018年春に販売予定)にはとくに注目が集まるかと思います。開発にあたり、どのような想いがあったのかを教えてください。

佐々木:GAZOO Racingは2012年から全日本ラリーの活動を続けていますが、2015年からは社員チームを結成し、ヴィッツをベースにした車両で参戦しています。そのフィードバックとしてヴィッツのGRMN第2弾(第1弾は2013年のヴィッツGRMNターボ)を出したいと考えていたときに、ヤリスがWRCに参戦することとなり、その記念車も出したいという話が立ち上がり、2つが重なりました。実際にはWRCについてはまだ始まったばかりでもあり、全日本ラリーで培った知見を新型ヴィッツGRMNに込めました。具体的には、冷却系の強化があります。さらに、WRCの記念車として世界基準でみたときには、ヴィッツGRMNターボの150馬力というスペックではまったく足りない。そこで、1.8L4気筒エンジンにスーパーチャージャーの組み合わせを採用しました。最高出力を210馬力以上としているのは、パワーウエイトレシオを世界トップレベルに引き上げたいと考えたからです。

ーー:ヴィッツGRMNのプロトタイプを試乗しましたが、走りのレベルの高さに関心すると同時に、走らせることで気持ちが非常に高揚するクルマであることが印象的でした。スポーツカーとして本格的な内容であることはもちろん、日本では市販されていない3ドアというスタイルも注目を集めるかと思います。

佐々木:現在全日本ラリーに参戦している車両は5ドアなので、新形ヴィッツGRMNも5ドアでというアイデアもありました。ラリーではスペアタイヤを搭載するのですが、5ドアのほうが取り出しやすくて有利だという実戦的な側面もあります。しかし最後はスタイル。そこで決めました。

ーー:「スポーツモデル=MT」というイメージは根強くありますが、「GR」は全日本ラリーでは2017年シーズンから「TGR Vitz CVT」というスポーツ制御CVTを搭載する車両で参戦していますし、今日の試乗車にも「ヴィッツGR」のCVT仕様が用意されていました。その理由を教えてください。

佐々木:CVTの競技車両を開発することでモータースポーツへの女性の参加も促したいですし、トヨタのCVTはつまらないという声を頂戴した時期があって、我々としても感じるところがあった。やればできるということを示したい。技術者魂ですね。競技で結果を出したいのですが、重量的なハンデもあり、なかなか簡単ではない。しかし、ステージによってはチャンピオンよりも速いタイムが出たこともありますし、我々としては手ごたえを感じています。CVTにはステアリング操作に集中できるという特性がありますから、運転しやすさと高性能が両立するのではないかということですね。また、ヴィッツにはデイリーカーというイメージもあるなかで、ヤリスWRCとのギャップを埋めてくれる存在という側面もあります。CVTでも十分にスポーツを楽しんでもらえるクルマに仕上げました。

ーー:「GR」はレーシングチームが市販車を手がけることで事業としての継続性を目指すという話がありました。

佐々木:モータースポーツは参戦し続けることが大事であるということについては、本当にそのとおりだと思います。これまでのトヨタに欠けていたところでもあり、そこは不退転の決意です。

ーー:WRCの日本開催についてもファンの間で期待が高まっています。

佐々木:みなさんの期待に応えたいですね。

ーー:ありがとうございました。

組織としての生存戦略でもある「GR」の新スポーツカーブランド構想。今回、短時間ではあるもののすべてのラインアップを試乗する機会が与えられた。性能面でのポテンシャルを確認できたことはもちろんだが、乗り味というフィーリング面においても「GR」ブランドが目指す方向性を感じられたことが収穫であった。それは、サーキットではなく、あくまでもリアルワールドに軸足を置きつつ、「ひととクルマとの対話を楽しめるスポーツカーがGRである」という考え方だ。情熱的なエンジニアたちが本気で取り組むスポーツカーづくり。その熱意はきっと多くのユーザーの元に届き、ファンの輪を広げていくに違いない。