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開発の現場から vol.11 マツダ「ひとの感覚に合わせたクルマ造り」

開発現場から聞こえてきたリアルな声から、現代の自動車が抱える問題のヒントや未来への展望を伺う。

今回は、SKYACTIVE世代から導入され、マツダのクルマ造りにおけるキーワードとなっている「ひとの感覚に合わせたクルマ造り」について、開発部門のキーパーソンに登場してもらった。

マツダ開発者に聞く「走りの歓び」の作り方 2017.8.29

自動車ビジネスにおけるトレンドが、エコから電動化、自動運転へと移り変わり、従来の自動車メーカー以外もプレイヤーとして参加している現在において、「人間中心のクルマ造り」というユニークな戦略を示しているのがマツダだ。2017年8月8日に発表された中長期ビジョンである「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言 2030」では、電動化や自動運転についての具体的なロードマップも示されたが、そのなかでも改めて「走る歓び」を第一義に掲げ、他ブランドとの違いを明確にしている。

今回は、年次改良を受け、さらに走る歓びを磨き上げたという新型CX-3の試乗会にて、常務執行役員 パワートレイン開発・車両開発・商品企画担当 広瀬一郎氏、そしてパワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部 第1走行・環境性能開発グループ 上席エンジニア 井上政雄氏に、マツダのクルマ造りの裏側について話を伺うことができた。

試乗会では、マツダが取り組んでいる「ひとの感覚に合わせたクルマ造り」の実例として、“躍度(やくど)”に着目したプレゼンテーションとテストドライブが実施された。躍度は時間あたりの加速度の変化率を示す言葉で、たとえば停止状態から同じ60km/hまで加速するにも、到達までの時間が短ければ躍度は高く、逆に時間が長ければ躍度は低くなる。つまり、ドライバーはアクセルを踏み込む量によって加速をコントロールしているが、同時に踏む勢い、速度によって、躍度もコントロールしている。しかし現実には、ドライバーの想像どおりに加速していかないクルマが少なからず存在し、ドライバーは意識的または無意識にそれを調整しているという現状がある。そこでマツダでは、アクセルを踏み込む速度と躍度を、踏み込み量と加速度の関係が人間のイメージと一致するような数理モデルを開発、新型CX-5以降のモデルに順次投入しているという。
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「躍度」のテスト。前走車の動きに合わせて、自車が思いどおりに加速するかを確かめる。

ーー:テストドライブでは、意図的に躍度を低くしたり、逆に高くした仕様についても試すことができましたが、アクセル操作に対して意図しない反応をクルマが示すため、ドライバーが先読みしてアクセル操作を微調整する必要がありました。それに対して躍度が適正に設定された仕様では、思いどおりにクルマが加速していくため、運転がしやすく、クルマに対する信頼感が増すという実感がありました。この技術については今後、一括企画の原則に従って他モデルにも展開されていくということでしょうか。

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常務執行役員 パワートレイン開発・車両開発・商品企画担当 広瀬一郎氏(写真左)、パワートレイン開発本部 走行・環境性能開発部 第1走行・環境性能開発グループ 上席エンジニア 井上政雄氏(写真右)

広瀬:そうです。SKYACTIVE世代を立ち上げる際に、一括企画、一括開発という考え方に取り組み、これを“コモンアーキテクチャー”として実現させました。これを人間に当てはめると、みんなを同じ体質にしてあげるということです。そうすれば、たとえば病気をしたときにも同じような方針で治療ができるし、同じ健康方法(新技術)を取り入れることで、みんなが元気になる。少し前までのクルマ造りというのは、難しい言い方をすると機能結合的なやり方だった。それぞれのセクションが作ったいい技術を組み合わせたらいいものができるだろうという発想です。しかしそれでは、体格(車格)が変わったり、環境に変動が生じると、どこかで劣性因子が生じ、弊害がおきることがある。私たちが目指したのは、機能結合ではなく俯瞰統合。クルマ全体でみたときに、それぞれの要素がどういう特性であらねばならないかを考えるのです。ですから、モデルによって部品の形や大きさが違っても、特性は同じとなるように設計しています。

ーー:そのような理論、理想があったとしても、クルマの開発、成功には膨大な数の人間が社外も含め携わるわけですから、価値観を共有するのは大変かと思われます。マツダのモノ造り革新とは、技術論であると同時に組織論でもあったのではないでしょうか。

広瀬:そのとおりで、初めはみんな半信半疑でした。しかしそれを言い続け、実感を持つようになって、いまでは誰もが実感を持つようになりました。

ーー:続いて伺いたいのが、マツダのクルマ造りの目指す方向性についてです。人間の感覚をどのように理解、評価して設計に反映させているのですか。

井上:結局、自分の身体に聞いてるんですよ。それは弊社の製品もそうですし、他社さんの製品に乗ったときに気がつかされることもある。いい、悪いを身体で感じとり、その現象がなぜ起きたかを考えるんです。今回ご紹介した「躍度」もそのひとつです。仮説を立ててクルマに乗って現象を再現するしかない。その結果、法則にたどり着いたものもあれば、まだたどり着けていないものもあります。また、パーツ同士の組み合わせによって発生する現象もあります。

ーー:クルマの話のようでいて、クルマの話ではないようですね。理論と同時に感覚が大事であるというのは、まるでピュアオーディオの話をしているようです。

井上:私もピュアオーディオは好きで趣味にしています。まさに、ケーブルを変えると音が変わるという話と同じです(笑)。理論よりもまず、自分の耳がどういう音を聴きたがっているのか、どういうクルマが運転していて気持ちいいのかを考える。そして、オーケストラの指揮者と同じように、クルマをどのようなキャラクター、人格に調律するか、そのイメージが大切だと思っています。

広瀬:気持ちいいと感じる現象の奥にあるのは、ただひとつの理論ではないということなんでしょうね。

ーー:だからこそ、いいクルマ造りには俯瞰統合的なアプローチが必要ということですね。本日はありがとうございました。