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開発の現場から vol.8 日産「ノートeパワー」

開発現場から聞こえてきたリアルな声から、現代の自動車が抱える問題のヒントや未来への展望を伺う。

今回は、日産が発表しヒット作となった新型ノートeパワーに搭載された制御技術開発の裏側についてお伝えする。

「ひと踏み惚れ」の裏にGT-R有り!? ノートeパワー開発の舞台裏を開発スタッフに聞く 2017.4.25

電気自動車は構造がシンプルだから、これまでの自動車を製造してきた経験のないメーカーやサプライヤーが新しいプレイヤーとして参入して戦国時代がやって来る。いまから数年前、こういった将来予測が一部の経済学者や業界関係者を通じて盛んに報じられ、イーロン・マスク率いるベンチャー企業のテスラモーターズの隆盛といった事実も後押しして、もはや既存の自動車メーカーにはアドバンテージがなくなるかのようなムードが漂った。
しかし、現実には自動車を作るのはそう簡単な話ではないようで、テスラのフォロワーもなかなか登場してこない。なぜならば、たとえ内燃機関という機械仕掛けが必要なくなったとしても、市販車たりうるクオリティのクルマを開発・生産するためには膨大なノウハウが必要だからだ。
まさにそのことを強く再確認させてくれたのが、日産に登録車では32年ぶりという販売台数1-2フィニッシュをもたらす(2017年1月においてノートが1位、セレナが2位)原動力となったノートeパワーだった。

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「これまにないEVのカタチ」という触れ込みで登場した日産ノートeパワーは、駆動力の100%をモーターが担う一方で、発電用にガソリンエンジンを搭載することで外部充電を必要としない。既存のメカニズムを上手に活用することで、手頃な価格を実現したということもあって、ノートeパワーはこれまで電気自動車に興味があっても、充電設備を用意する敷居の高さや、航続距離に不安・不満があって様子見していたユーザーたちの支持を集めることに成功。プラグインハイブリッドに傾きつつあった市場の流れに対して、独自のアプローチを示すことができたという意味でも価値のあるヒットとなった。

そんなノートeパワーの開発者に、「NISSAN INTELLIGENT POWER体験会」というメディア向けイベントで話を聞くチャンスがあった。日産は、将来に向けた技術の柱として「電動化技術」と「知能化技術」を掲げているが、そのうちの「電動化技術」について、実車の展示と試乗を通じてアピールしようというのがその意図だ。
話をしてくれたのは、イベントのプレゼンターも務めた電動パワートレーングループ パワートレーン主管の仲田直樹氏。eパワーの心臓部をまとめ上げた開発のキーパーソンだ。
ノートeパワーの開発においては、先行して販売していた電気自動車リーフの技術ノウハウが大いに役立ったと語る仲田氏。とくにモーターについてはリーフに使われていたのと同じものを採用していることもあり、作り込みにかかる時間が大幅に短縮されたと振り返る。
「とくに気を使ったのが、モーター駆動ならではの反応のよさを作り込むことでした」
ガソリンエンジンと異なり、瞬時に最大トルクを発生させるモーターならば、レスポンスをよくするのは簡単なように思えるが、現実はそう単純なものではないという。
「発進時、モーターが力を発生すると、その大きなトルクに寄って駆動系がねじれて振動が発生します。そのためインバーターを制御することで10000分の1秒単位でトルク制御を行い、なめらかかつ力強い加速を実現しています。他のEVではこの振動を抑えるために加速の初期にトルクを抑える方向で制御することが多いのですが、ノートeパワーではひと踏みでガソリンエンジンとの違いを実感できる加速のよさがほしかった。我々はそれを『ひと踏み惚れ』と言っているのですが、試乗してすぐに、試乗した皆さんにEVの面白さに気がついてもらえるようにしたかったのです。そのため、販売会社にもご協力いただき、各ディーラーにノートeパワーの試乗車を用意してもらって、積極的に試乗してもらえるように体制も整えました。おかげさまでノートeパワーは我々の想定以上の販売台数を実現できましたし、リーフの販売にもプラスの効果が出ています」

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「ひと踏み惚れ」の立役者のひとりである、電動パワートレーングループ パワートレーン主管の仲田直樹氏
日産に久しぶりの販売台数ナンバーワンの栄誉をもたらした「ひと踏み」の力。しかしそれは、一朝一夕で生み出せたものではなかったという。
「リーフの開発で積み重ねたノウハウというのも大きかったですが、じつは私、電気自動車の前はGT-R(R35)のパワートレーンを担当してまして、加速には当時からこだわっていたんです。R35には6速のデュアルクラッチトランスミッションを採用しましたが、エンジンの強力なトルクをどうやってトランスミッションを壊さず路面に伝えるのかというところで非常に苦労しました。メカの耐久性を考えたらトルクをじっくり伝えてゆっくり加速させたい。でも、ゼロ発進からの加速でGT-Rがその辺のセダンに負けるわけにはいかないでしょう(笑)。我々は必死になって制御技術を磨く必要があった。しかし、そのときに苦労したおかげで、非常にいいノウハウが蓄積できました。ノートeパワーの加速感の作り込みにはGT-Rのエッセンスが入っているんですよ」
環境性能の進化は時代の要請であり、電動化が進むことは疑いようがない。しかし、単にパーツを組み合わせるだけでユーザーが満足するクルマは決して作れない。エンジニアの努力とこだわりが生み出したノートeパワーの「ひと踏み惚れ」こそ、その証左だ。