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開発の現場から Vol.2 プリウスPHV

開発現場から聞こえてきたリアルな声から、現代の自動車が抱える問題のヒントや未来への展望を伺う。

今回は、トヨタが発表した新型プリウスPHVをテーマに、次世代環境車開発の舞台裏をお伝えする。

新型プリウスPHVが独自デザインになった理由 2016.9.30

大きな進化を遂げた「低燃費の切り札」、トヨタがPHVに本気だ。

PHV(Plug-in hybrid)とは、コンセントから直接バッテリーに充電できるハイブリッドカーで、メカニズム的には従来のハイブリッドカーと電気自動車との中間的な存在。ハイブリッドカーでは、エンジンが主役でモーターはその補助的な役割を果たす。それに対してPHVは、より電気自動車に近く、エンジンを使わないEV走行の領域が広いのが特徴だ。
たとえば、自宅で充電しておけば、職場との往復や近隣での買い物といった日常的な使い方ではガソリンを使わずに済んでしまう。そのことは当然、燃費の低下に直結する。
トヨタでは、2009年にプリウスベースのPHV車のリースを始め、2012年からは市販モデルとしても販売を開始した。だが、初代プリウスPHVは販売面では最初から最後まで苦戦することとなった。ベースモデルに対しての差別化が少なく、その「利得」がユーザーに伝わりづらかったのだ。

しかし、新型プリウスPHV開発責任者である豊島浩二チーフエンジニアは、新型プリウスPHVについてモデルライフ累計で100万台を世界で販売していきたいと語っている。初代モデルが7万5000台にとどまったことから考えれば、その期待値は非常に高いと言えるだろう。

この9月に、プロトタイプではあるが新型プリウスPHVを試乗する機会が与えられた。そして併設された会場にて新型に盛り込まれる各種新技術の展示が行われ、開発スタッフから直接それぞれについての説明を受けることができた。新型車の発表時にこのようなプレス向けのイベントが行われるのは珍しくないが、そこで披露された新技術の多さや内容からも、すぐにその力の入れようが伝わってきた。

トヨタがこれまで以上にPHVの開発に力を入れるようになったのには大きく2つの理由があると推測される。

ひとつは、ライバル会社が次世代エコカーの主力としてPHVに注力し、強力な商品力を持つ競合車種が複数発売されるという状況。VWグループやBMW、メルセデス・ベンツといった欧州の主要ブランドから魅力的なPHVが続々と登場し、これまで日本車の独壇場だったハイブリッドカー市場に参入してきた。

そしてもうひとつが、カリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle)規制の存在だ。
この規制は、カリフォルニア州で年6万台以上販売するメーカーが対象で、販売台数の一定比率をZEVにしなければならないというもので、トヨタもこれに該当する。

ZEVとは排出ガスを一切出さない電気自動車と燃料電池車のことで、通常のクルマを販売したければ、その販売台数に応じてZEVも販売しなければならない。当初2005年〜2008年モデルでは10%の比率だったZEVの比率は年々上昇しており、2018年モデル以降は16%と設定されているのだ。
この規制は非常に厳しいものではあるが、カリフォルニア州は北米市場のなかでもとくに大きなマーケットのひとつであり、各メーカーはこの規制に準じるか、罰金を払う必要がある。ちなみに、義務以上にZEVを販売した会社にはクレジットが与えられ、それを他メーカーに販売することも許されており、テスラ社はこのクレジット販売で大きな利益を得ている。

しかしこの規制には救済措置が設けられている。現実的には電気自動車や燃料電池車の普及には、コストや運用面でまだまだ時間がかかるのが現状であるとして、救済措置として、プラグインハイブリッドカーやハイブリッドカー、天然ガス車、排出ガスが極めてクリーンな車両についても一定の割合でZEVに換算することが許されているのだ。これまでトヨタではプリウスがハイブリッドカーとしてエコカー扱いとなり、ZEV規制に少なからず貢献してきた。

だが、2012年ZEV規制のレギュレーションが見直され、2018年からは従来のハイブリッドカーはZEVに含まれなくなった。トヨタは、燃料電池車であるミライの市販にこぎつけたものの、生産可能な台数も少なくプリウスの不足分をカバーするには不十分。そこで、プリウスに代わる存在として、プラグインハイブリッドカーであるプリウスPHVに白羽の矢が立てられることになる。初代プリウスPHVのようなテクノロジーショーケースではなく、低燃費はもちろん、「魅力的で売れるクルマ」に仕立てる必要が出てきたのだ。

新型プリウスPHVを「売れるクルマ」にするためにトヨタが選んだコンセプトが、「先進的な環境車でありながら、実用的であること」。それは、ユーザーの声を反映させるトヨタが得意とする手法に加えて、これまでにない新技術の投入という形でも現れている。その代表的な技術が、量産車では世界初となる駆動用バッテリーに充電する「ソーラールーフ」やこれまでF1やLFAといった超高額車両にのみ採用されてきた軽量かつ高剛性を実現するCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のバックドアだ。
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量産車では世界初となる走行用バッテリーに充電可能なソーラールーフは、燃費に効果を及ぼす。

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従来の素材に対して40%もの軽量化を実現したCFRP製バックドア

CFRP製のバックドアを採用した意図について担当の開発スタッフは、大幅な軽量化と同時に形状の自由度の高さが可能になったと胸を張る。これまで少量で高コストが許される特別なクルマだけに使われていたCFRPではあるが、生産方法を工夫し、さらに内張りを素地むき出しにすることで部品点数を削減できたことが採用のカギとなったそうだ。CFRPならではの意匠性を活かしたことは、PHVの先進的なイメージともマッチする好アイデアと言えるだろう。

クルマの表情を決定づけるヘッドライトに4眼LEDを採用したことも「魅力的で売れるクルマ」にするためのこだわり。じつはこのLEDヘッドランプは、ミライ用を開発する際にプリウスPHV用としても利用できるよう配慮した設計とすることで、コストの問題をクリアしたのだという。
このようなプリウスPHVをプリウスよりも格上に見せる工夫は、スタイリングにも隠されていた。開発スタッフによれば、プリウスでは燃費性能が「40km/L」を超えることが開発上の大きなテーマとなっていたため、デザインは細部にわたって空力を意識した制約が発生したが、プリウスPHVではあえて空力が悪くなるのを承知で、より伸びやかで格好いいデザインを優先できたのだとか。確かに、比較のために用意されたプリウスに対してプリウスPHVはあきらかに格上の存在感があり、現場の各メディアからも好意的な意見を多く聞くことができた。
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11.6インチの大型ディスプレイは「プリウスではあえて採用しなかった」隠し球

そして肝心の走行性能についても、プリウスとの差別化をはっきりと体感することができた。用意されていたのがプロトタイプだった関係でナンバーが取得できずサーキットでの試乗となったのだが、そんな場所でも新型プリウスPHVは明らかにプリウスよりも力強く加速し、深くアクセルを踏み込んでもエンジンはかからず、モーターのみで走行してくれた。そして、乗り心地の面でも標準モデルよりもしなやかさが強調されたセッティングのおかげで快適さは上々。聞けば、重量物が低重心でバランスよく配置されたこともしなやかな乗り心地の追い風になったという。

プロトタイプを短時間試乗しただけではあったが、新型プリウスPHVが従来モデルとはまるで違うクルマに生まれ変わったことは間違いがない。そして、上質さや高級感を意識した差別化は、ユーザーにとってもPHV化による価格差(価格は未発表)を納得する理由としてふさわしい。この新型プリウスPHVが日本を始めとする世界でどのような評価を集めるのか、いまから楽しみだ。