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開発の現場から Vol.1 自動運転

開発現場から聞こえてきたリアルな声から、現代の自動車が抱える問題のヒントや未来への展望を伺う。

今回は、自動車の未来技術のなかでもとくに注目されている自動運転について、話題の新型セレナをテーマに、現状と今後の展望をお伝えする。

「自動運転」と「完全自動運転」 2016.8.26

2016年7月13日、日産自動車は8月下旬に発売予定の新型「セレナ」を初公開したが、これが大きな話題となった。
セレナは、ファミリーカーの中心的車種であるミドルクラスのミニバンで、これまで累計150万台以上を販売したヒットモデル。今度登場する新型は5代目となるが、大きな話題となったのは、単にフルモデルチェンジのせいではない。日産が新型セレナに「ミニバン世界初 同一車線自動運転技術」を搭載すると発表したからだ。

ニュースやWEBサイトなどでは、「日産から自動運転のミニバンが発売」という刺激的な見出しが踊り、それを見たユーザーたちも、自分たちが購入できる価格帯で自動運転のクルマが登場するのかと大いに喜び、話題となった。
同日開催されたプレス向けの技術説明会では、研究開発部門のトップを務める坂本秀行副社長は、「自動運転の技術で安心、安全、快適な空間を提供する。世のなかにこの価値を問うていきたい」とコメント。戦略車種への自動運転技術が新しい価値を生むと、その仕上がりと成功に自信を見せた。

だが、多くのユーザーがイメージし、期待している「自動運転」と、今回新型セレナに搭載された自動運転技術「プロパイロット」には、ギャップがあった。

新型セレナに搭載された「プロパイロット」は、高速道路での渋滞走行と長時間の巡行走行の2つのシーンで、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自動で制御し、ドライバーの運転操作をサポートするという先進装備。ドライバーがハンドルやペダル操作を行わずとも、車両が車線や周囲の車両を感知し、車間距離を保ったまま同一車線上を自動的に走行してくれる非常に高度なシステムだ。
これを日産では「同一車線自動運転技術」と呼ぶが、実態はあくまでも自動運転の技術を利用した運転サポートである。

つまり、クルマが自動的に各操作を行いはするものの、運転の主体となるのが従来どおりドライバーで、クルマが主体となって走る「自動運転」ではない。
あくまでもクルマの安全を管理する責任を持つのはドライバーで、不測の事態が起きた場合には、自身の判断と操作でアクシデントを回避する義務を負う。これは、従来のクルーズコントロールでも同様だ。クルーズコントロールは、ドライバーからアクセルおよびブレーキの操作を肩代わりしてくれるが、運転の責任者はあくまでもドライバーにある。
インターネット上のSNSなどでも、非常にたくさんのユーザーが今回のニュースに興味を示しながら、その実態を正確に理解すると同時に少々落胆的なニュアンスの発言を行うケースが見られたのは、この「自動運転」に関する認識のズレが根本にあるからであろう。

一般的なひとびとが「自動運転」という言葉から連想するのは、目的地の情報を入力すると、ドライバーが操作することなくクルマが目的地までまさしく自動的に移動するというもの。移動中ドライバーはインターネットを楽しんだり、同乗者とコミュニケーションを楽しんでいるというイメージだ。

確かに、こういったビジョンは、これまでモーターショーのコンセプトカーなどによって幾度も提案されてきた。
とくに2015年に開催された「第44回東京モーターショー2015」では、各社ブースに自動運転を示唆する展示が数多く行われ、ショー自体のテーマとも読み解くことができたほどであった。
また、米国のテスラ社が「自動運転が可能になりました」(テスラモーターズチーム・2015年10月14日)と発表。その後、自動運転の模様を同車のユーザーが動画サイトに投稿したことなどで、一気に自動運転に対する期待感が高まっていたことも背景にあるだろう。

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日本仕様でも「自動運転機能」が機能解禁されたテスラ モデルS P85

 

しかし、実際に自動車メーカーが開発している「自動運転」技術の多くは、運転支援技術を高度化していく方向性で、あくまでも最終的にな運転の責任はドライバーが負うもの。ドライバーにはシステムの監視と運転を行う役割が残る。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、2013年5月の提言で自動運転に関する一次政策方針を公表。そのなかで、車両の自動化の分類を4段階にして表現した。以下がその引用となる。

車両の自動化の分類

レベル0(自動化なし)
常時、ドライバーが、運転の制御を行う。
レベル1(特定機能の自動化)
操舵、制動または加速の支援を行うが、操舵・制動・加速のすべてを支援しない。
レベル2(複合機能の自動化)
ドライバーは安全運転の責任を持つが、操舵・制動・加速すべての運転支援を行う。
レベル3(半自動運転)
機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作を行う。
レベル4(完全自動運転)
運転操作、周辺監視をすべてシステムに委ねるシステム。

引用ここまで。

これを踏まえると、日産の新型セレナは、高速道路上に限って「レベル2」の能力を与えたクルマだと表現することができる。また、テスラ社は同社のリリースにおいて、モデルSの自動化を「レベル2に相当する」と発表している。

今後、各メーカーは自動運転に関する技術を磨きあげていくことは予想されるものの、開発現場の声を聞くとレベル4に相当する「完全自動運転」への道のりはまだまだ遠いといった印象だ。
自動車メーカーにとっては、自らにリスクが発生する可能性のあるレベル4よりも、ドライバーが責任を負うものの、運転操作への負担を大きく低減できるレベル3の実現を目指している。

では、新型セレナの「同一車線自動運転技術」は発展途上のものなのだろうかというと、開発スタッフはそうではないと胸を張る。まだ新型セレナの試乗機会は与えられていないが、今回の機能を実装するにあたっては、日本中の高速道路をくまなくテストし、そのパターンを解析することで、レベルの高い内容になったというから楽しみだ。

 

「完全自動運転」がまだまだ遠い未来の話になると悲観するのはまだ早い。従来の交通システムのなかでレベル4のクルマを走らせるのはハードルが高いが、期間限定で設定された特別区域のなかに車路と歩道を分離した専用道路を作るのならばそれは夢物語ではなくなる。

2015年10月、安倍首相は「2020年には、東京で自動運転車が走り回っている」と宣言した。東京オリンピックの開催される2020年、もしかしたら、無人タクシーのような形で、「完全自動運転」が実現するのかもしれない。