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PROTO総研/カーライフ インタビュー

2017年にPROTO総研「プロト賞」を受賞した東京大学大学院 学際情報学環の渋谷 遊野(しぶや ゆや)さんが、プロトコーポレーションとの産学連携プロトジェクトについて博士論文として研究結果を発表した。約2年に渡り、どのような研究に取り組んできたのか、渋谷さん、田中教授にコメントを頂きまとめていただいた。

PROTO総研「プロト賞」受賞から約2年に渡る研究の成果 2019.5.9

更新頻度が高く、リアルタイム性のある市場データを分析することで分かった被災地での中古車需要

 

東京大学大学院情報学環 渋谷遊野さん

「プロト賞」では2011年の東日本大震災時の中古車市場データをプロトコーポレーションより提供いただき、大規模災害が中古車市場に与える影響や、被災地における社会経済的復旧・復興の指標としての中古車市場データの活用可能性について研究する機会をいただきました。プロトコーポレーションが提供してくださった中古車市場データは、既存の復興の指標として活用されている政府統計などのデータと比べ、更新頻度が高くリアルタイム性があるほか、車種や販売地域ごとでデータを分類して分析できるなど解像度が高く、データのボリュームも多いことに特徴があります。こうしたことから、中古車市場データは、既存の統計データでは捉えきれない社会経済的活動を検知する可能性を有する社会的に意義の大きなデータと考えられます。

2017年の「プロト賞」授賞式

2017年の受賞インタビュー記事はこちら

東日本大震災では津波により多くの自動車が被害を受け、被災された方々は生活の足を失いました。今回の被災地では公共交通機関の被災も大きかった上、普段から自動車を軸に生活をされている方々が多い地域でもあり、被災された方々の多くは車を買い直す必要がありました。中古車は新車の購入に比べ比較的安価に手に入りナンバープレートが付いていれば購入してすぐに走り出すことができることもあり、一般的に大規模水害後は被災された方々からの中古車への需要は新車に比べても高まる傾向があります。この傾向は米国でもしばしばハリケーン災害の後で見られます。

では、いつどのようなタイプの自動車がどのような理由で被災地で求められたのでしょうか。この問いに対して、本研究ではプロトコーポレーションが蓄積されている中古車市場データを分析し、さらにプロトコーポレーションの御厚意により被災地内の中古車ディーラーをインタビュー調査することで答えようとしました。

まず初めに宮城県と岩手県の両県で発行された「グー」の掲載中古車データを震災の影響が比較的小さかった中国地方の「グー」の掲載中古車データと比較を行いました。この比較分析においては自動車の価格の分析で用いられることの多いヘドニック・モデルと呼ばれる経済モデルを用いました。車両タイプごと及び半月単位で被災地内で販売されていた中古車と被災地外で販売された中古車データを分析することで明らかになったことは、東日本大震災発生後の比較的早い段階、具体的には半月後から数ヶ月後の間で、軽自動車の価格が被災地で被災地外と比べて統計的に優位に上昇していたことが分かりました。軽自動車の価格が被災地で高くなっていた時期の軽自動車の被災地への供給量を確認すると、震災前と比べて同等もしくは増えていました。つまり、被災地への中古車の供給量が増えていてなおかつ価格も上昇していて、被災地の中で軽自動車への超過需要があったことが確認できました。

また、興味深いことに軽自動車の中でも比較的積載量の多い車種である軽キャブバンや軽トラックで超過需要が確認され、被災された方々や被災地で活動する方々ががれきの除去や物資の搬送など災害時ロジスティクスを支える復旧・復興活動のために中古車自動車を購入していた可能性も見えてきました。

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データ分析により被災地では軽キャブバンや軽トラックの需要が高いということが確認できたという(写真はイメージ)

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渋谷さんは「日本経済政策学会第74回(2017年度)全国大会」において、「大規模災害が中古車価格に与える影響に関する研究」を発表。以前、その内容についても解説いただいた。

研究内容の解説記事はこちら

続いて、被災地で中古車への需要が高まっていた背景にはどのような被災地での活動があったのか、東日本大震災の被災地内の中古車ディーラーやオークション会場へインタビュー調査を通して、どのような人がどのような時期にどのような目的で中古自動車を購入されていたのかを明らかにすることを試みました。その結果、震災で車を失った人々の多くは日常生活の復旧・復興の活動を始めるにあたり中古車を購入されていたケースが多いことが明らかになりました。

例えば、震災後仕事を再開するタイミングで通勤の足として中古車を購入されたり、子供の通学の送り迎えのために購入されたり、あるいは親戚などの安否を確認するために移動する手段として購入されたりするケースです。自律的な復興のための活動を支える足として中古車へのニーズが高まっていたことが分かります。

これらの調査結果から、中古車市場データは災害後の被災地の復旧・復興のための社会経済的活動の指標の一つとして用いることができる可能性を示すことができました。被災地の復旧・復興には多様な側面があり、多元的に復旧・復興をよりリアルタイムで近い形で評価し効果的な復興政策につなげていくことが求められていますが、中古車市場データはその一端を担うことができる可能性があると考えられます。

今後は、中古車以外で災害後の需要に特徴がある他の財の検討も行い、異なる複数の財の需要が災害後どのように関係しあっているのかなどを分析することも求められます。また、公共交通機関が発達していて自動車保有率が低い都市圏で大規模災害が起きた場合の社会経済的復旧・復興指標についても検討する必要があると考えています。

本研究の成果は、情報システムと危機対応関連の国際トップカンファレンスや複数の英語論文誌で発表させていただいており、関連研究分野にも一定の貢献をすることができました。最後になりますが、中古車市場データやインタビューの機会の提供のほか、何度も私たちの大学に足を運んでいただき中古車市場に関する多様な知見をご教授してくださったプロトコーポレーションの皆様に心から御礼を申し上げます。今後も本研究を発展させるよう研究を進めて参ります。

【プロフィール】
渋谷遊野
東京大学大学院 学際情報学環 特任助教
宮城県出身。2019年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。研究の関心は災害後の経済復興やビッグデータ解析など。

 

東京大学大学院情報学環・学際情報学府 田中秀幸 教授

このたびは、プロト賞のご支援をいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで、受賞者の渋谷さんは、ご支援に基づいて行った数々の研究を重要な構成要素として博士論文をまとめることができました。この博士論文は、学術的にも社会的にも高い意義を有するものとして評価されました。特に、災害復興時において、新たなリアルタイムデータを計測する手法を提案するとともに、実社会の大規模データに基づきその適用可能性を示したことの意義は大きいとされました。博士論文全体として、大規模データを対象に機械学習や自然言語処理などの情報科学的手法を駆使しながら、災害復興論、Crisis Informaticsや経済学などの諸学を融合して、リアルタイムデータ活用による新たな情報社会の構築に貢献するものであり、今後の社会情報学研究の1つの嚆矢となり得ると高く評価されています。

そして渋谷さんは、2019年4月からは東京大学大学院情報学環特任助教として、災害復興時の大規模データ活用などに関する世界最先端の研究に取り組むことになりました。このようにしっかりと研究成果を出すことができ、引き続き、更なる研究の発展に向けて取り組むことができますのも、プロト賞とプロトコーポレーションからご提供いただいた貴重なデータなどのご支援のおかげさまとあらためて感謝申し上げます。

プロトコーポレーションが長年に亘って積み重ねられてきた自動車に関する膨大なデータは、今回の災害復興のように様々な分野で利用できる、非常に貴重なものであることを実感しております。引き続き、学術研究の発展のためにご協力をいただければ幸いです。

【プロフィール】
田中秀幸
東京大学経済学部卒業後、1986年から通商産業省・自治省に勤務し(米国大学院留学を含む)、経済・通商・産業政策や地域振興策を企画・立案。 2000年に東京大学に助教授として赴任、2009年に大学院情報学環・学際情報学府教授。2018年から大学院情報学環長・学際情報学府長(組織名は当時)。専門はネットワーク経済論、情報経済論。