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PROTO総研/カーライフ インタビュー

PROTO総研/カーライフ所長の宗平がゲストをお迎えして、「クルマ」に携わるひと、ユーザーの皆さんに役立つお話を伺うこのコーナー。今回は自動車ジャーナリストの九島辰也さん、カーライフ・エッセイストの吉田由美さんをゲストにお迎えし、自動車業界のトレンドについて、ひと味違った切り口とユーザー目線で語り合います。

「クルマ好き目線」で考える、自動車業界の現状とこれから 2019.2.26

経済誌では語られない消費者目線での業界トーク

(出演者すべて敬称略)

宗平 2018年の印象的だった出来事も振り返りつつ、自動車業界のいまについて、ざっくばらんにお話していきたいと考えています。よろしくお願いいたします。

吉田 昨年に引き続いてお招きいただきましてありがとうございます。よろしくお願いいたします。

九島 本日はよろしくお願いします。みなさんとのトークを楽しみにしていました(笑)。

宗平 それではさっそくお話を伺います。「自動車業界」というテーマになると、新聞や経済系メディアでは、自動運転やカーシェアリングといった産業面を重視した話ばかりが先行して、いまいち消費者目線の議論が少ないと思っているんです。

吉田 そのとおりですね。では、今日は難しい話はちょっとおいておいて(笑)。いまクルマ好きの間で、よりファッション的な感覚を強めたクルマにも注目が集まっているのをご存知ですか?

宗平 それはどういったことでしょう。

吉田 例えば、光岡自動車が創業70周年記念で発売したロックスターは、マツダのロードスターをベースに独自のスタイリングを与えたクルマですが、500万円を超える価格にも関わらず、予定された限定200台はあっという間に完売してしまいました。

九島 ロックスターは60年代のアメリカン・スポーツカーを想わせる伸びやかなボディラインが魅力的な、まさにスタイル命のクルマ。ベースとなったロードスターは走りの資質を高めるためにこだわり尽くしたクルマだけど、ロックスターが欲しいというユーザーは、オーバーハングが伸びて走行性能が落ちた……なんてことはきっと気にしてない(笑)。あのサイズ感で抜群の存在感を実現させたところに価値があるんだから。

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光岡自動車の70周年を記念して限定販売された「ロックスター」。

吉田 同じように名車を現代に復活させたというお話ですと、イギリスのLister Bell Automotive(リスター ベル オートモーティブ)社が製造するランチア ストラトスのレプリカ「the STR」も話題になっています。

宗平 ランチア ストラトスも名車として非常に人気が高いクルマで、本物であれば50万ドル、5000万円以上の価格で取り引きされています。レプリカであっても欲しいと思う方は多いでしょうね。

吉田 「the STR」の面白いところは、「もしもストラトスが2019年まで改良され、生産が続けられたら」という開発思想で作られていて、性能にも妥協がないところなんです。

九島 いまの技術で昔の名車を復活させるというのは、クルマ好きにとってひとつの夢だよね。

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リスター ベル オートモーティブ社が製造するランチア ストラトスのレプリカ「the STR」。

 

加熱するクラシックカー人気の理由とは?

宗平 そういえば最近、クラシックカーに関する話題をよく見聞きするようになったのですが、そういう懐古主義的な流行があるのでしょうか。

吉田 日本の各地でイベントも数多く開催されるようになって、クラシックカーを目にする機会が増えてきているのかも。九島さんもクラシックカーを所有してイベントに参加されてますよね?

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九島 そう、僕がいま乗っているのは1969年型のダットサン・フェアレディSRL311っていうモデルで、昨年はこれで国内のいろいろなイベントに参加しました。日本版ミッレミニアもすでに20年もの歴史を持つし、国産旧車のイベントも盛り上がっています。近年これだけクラシックカーがブームみたいになっているのは、ヨーロッパでクラシック・フェラーリの価格が何十億円だっていう話が聞こえてきて、それに引っ張られている部分もあるように思えます。

宗平 たしかにクルマだけでなくバイクも含めて、クラシックモデルの価格は驚くくらい高騰していますね。

九島 一方で、より身近なクラシックカーもトレンドです。80年代や90年代に生産されたいわゆる「ヤングタイマー」。国産車では日産 S12シルビアとかガゼールが旧車として扱われるようになってきました。

宗平 どちらも少し前までは中古車としての価値もあまり高くなかったのに、いまそんなことになっていたのですか。

吉田 中途半端に古いとカッコ悪いというのは、ファッションと同じですね。

宗平 それは非常によくわかります。いまの若者の洋服がそうで、これまで細身になってきたシルエットが、急にまたルーズなものになってきた。まさに私の若い頃に流行していたようなラインなので驚いてしまいました(笑)。

吉田 30年くらい経つと、当時を知るひとには懐かしく感じるし、若い世代にとっては新鮮に見えるのかもしれません。

宗平 2018年の新型車として大ヒットになったスズキのジムニーにも、どこか通じるものがあるように思えました。あの角ばったデザインが、かえって新鮮に感じました。

吉田 出張先の駅で、構内にジムニーが展示されていたんですけど、大人だけでなく子供たちが楽しそうに見ているのが印象的でした。東京オートサロンに展示されていたピックアップモデルも大人気でしたし、ジムニーのフォルムには、どこかひとの本能に訴えかける魅力というか、可愛さがあるのかもしれません。

九島 あのデザインはいわば確信犯。ふつうのカーデザイナーはああいう角ばったデザインをやりたがらないんです。なぜなら、よく「マーケッターは半歩先を行く」と言いますが、カーデザイナーは4歩ぐらい先の未来をみているからです。だからこそ、異端であるジムニーが目立って注目された側面はあるでしょう。

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一時期は1年以上の納車待ちとなったことも話題となったスズキ「ジムニー」。

宗平 なるほど。モーターショーのコンセプトカーも流線型をした未来的なデザインのクルマが多いですものね。こうした傾向は、自動車の電動化や自動化が進むことのリアリティが増してきたことへの反動なのでしょうか?

吉田 クルマには、モビリティとしての役割に加えて文化的な側面がありますから、それぞれのユーザーによって受け止め方は色々あると思います。自分で整備をしたり、運転を楽しむひとにとって自動運転は「つまらない」かもしれませんが、地方のお年寄りなどにとっては「安心してでかけられるようになる」と好意的に受け止める声も多いでしょう。

九島 日産がデトロイトショーで発表したコンセプトカー「Nissan IMs」は、「2+1+2」というユニークなシートレイアウトを採用していて、自動運転時にはパッセンジャーと会話しやすいようにフロントシートが回転する機能が与えられています。電気自動車なので床下は完全なフラットで車内での移動も快適になっています。EV化や自動運転によって、新しいカーデザインや価値が生まれるという側面もあります。

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デトロイトショーで公開された日産のコンセプトカー「Nissan IMs」は自動運転を生かしたアレンジが特徴。

宗平 エンジンがなくなることで、これまでとは違ったプロポーションも実現するということですね。

九島 そのとおりです。ただ、現在のバッテリーの技術では、どうしても床下にバッテリー用のスペースを用意しなければならない関係で、フェラーリのようなプロポーションはできるけど、あの最低地上高ができないようです。

宗平 電動化の最前線にいるエンジニアたちによれば、電池の進化は予想が難しいとのことです。そうなると、クルマ好きとしては、まだまだガソリンエンジンにも頑張ってもらいたい(笑)。

九島 2018年にフェラーリは日本で767台を販売しました。これは中国を抜いてアジア太平洋地域でもっとも多い数字だそうです。世界的な販売台数は右肩上がりですし、ほかにもアストンマーティン、ランボルギーニ、マクラーレンといったスーパーカーブランドはどこも成長しています。日本でもひさしぶりにトヨタのスープラが復活しますし、ビジネス的な側面からみても、自動車は多様な価値観に対応していくのは間違いない。

「カーガイ」経営者のトップ会談はレース会場で行われる

宗平 スープラといえば、BMWと共同開発されたことも話題です。トヨタとBMWは2011年に提携していて、今回の開発はその成果ということだと思うのですが、どうしてこのようなことが実現したのでしょうか。

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BMWと共同開発で復活したトヨタ「スープラ」。直6エンジンを搭載する後輪駆動車。

九島 おそらく、ニュルブルクリンクです。アストンマーティンがトヨタのiQをベースにしたシグネットという小型車を出したのを覚えていますか?

宗平 はい。小さくて可愛らしいアストンマーティンですよね。

九島 あれが誕生したのも、レースのパドックでトヨタとアストンマーティンのトップ同士が出会ったのがきっかけでした。

宗平 そんなことってあるんですね!

吉田 音楽のコラボと同じです。現場で意気投合して、一緒に作品を作ろうっていう。

九島 みんなそうですよ。トップ同士での雑談のなかからコラボレーションが生まれる。オフィシャルな場所ではできない話がサーキットではできますから。アドレナリンも出ているし(笑)。

宗平 非常に興味深いお話です。つい、提携というとビジネス的な視点でばかり考えてしまいますが、そういう純粋な部分でのつながりというのも大きいのですね。

九島 トヨタは豊田章男社長になってからずっと良いクルマづくりに取り組んでいて、その成果は製品にも現れてきている。トップがクルマ好きであるいい影響ですね。もちろん、ただ良いクルマを作っていればいいという時代でもなくなってきていて、生き残りにかけての危機感を発言からも非常に感じます。

宗平 ソフトバンクとの協業は象徴的な出来事でしたね。自前主義からオープンイノベーションへの転換も、その危機感の表れなのでしょう。

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吉田 先日、内閣府主催が主催するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のシンポジウムに参加したんですね。そのなかで自動運転時代に必要とされるダイナミックマップ(高精度3次元地図)についての話題となったときにも、単独の企業では難しい、だから自動車メーカー、地図メーカー、測量メーカー、国が協力して取り組んでいきましょうという議論が行われました。

九島 協調の領域と競争の領域という考え方ですね。莫大な投資が必要なプラットフォームはみんなで開発し、それ以上の商品性などで競争するという。

吉田 自動車は日本という国の基盤になる産業ですから、人々の生活の基盤を守るためにも、このような取り組みを活性化させていく必要があると思います。

九島 その上に、人々の心を豊かにする趣味の世界が広がっていくことが望ましい。

宗平 まさにそのとおりですね。これからも多様性のあるクルマ社会が続くことを期待しております。本日はありがとうございました。

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用意されたカタログの中から、それぞれにお気に入りの1台をチョイスしていただきました。

【対談者プロフィール】
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九島 長年にわたり男性ファッション誌や一般誌などでも活躍し続ける自動車ジャーナリスト。その知見は広く、プライベートでも、アメリカ、ドイツ、イギリスと、各国のクルマを乗り継ぐ。

 

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吉田由美 数多くの雑誌や自動車関連ウェブサイトなどを中心に活躍するカーライフ・エッセイスト。執筆する複数のブログは驚異的なアクセス数を記録している。

 

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宗平光弘 株式会社プロトコーポレーション常務取締役。ITソリューション部門担当。「2017-2018 日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員。当サイト「PROTO総研/カーライフ」の所長を務める。