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PROTO総研/カーライフ インタビュー

プロトコーポレーションでは、2017年から茨城大学と産学連携の共同研究に取組んでいる。茨城大学では、様々なデータを基礎としたAIによるオークション落札価格を予測する研究を行っており、今回はその共同研究の成果について、茨城大学教授で理学博士の鈴木智也氏と学生の皆さんに話をうかがった。

AIを駆使した中古車の価格変動予測が、産学連携の共同研究で実現 2019.1.22

客観的かつ機械的に標準的な状態の基準価格を導き出す

(出演者すべて敬称略)

清水 本日はお忙しい中、有り難うございます。この度は、プロトコーポレーションとの産学連携における取り組みにご協力いただき有り難うございました。まずは産学連携の研究を始めるようになった経緯をご説明ください。

鈴木 プロト総研の産学連携プロジェクトに応募して、そこからスタートしました。今行っているのは、中古車の下取査定額の判断と予測です。

清水 なぜ中古車を題材に選ばれたのでしょうか。

鈴木 私の出身は物理学です。物理学は、ことわり(物事の道理)を追求する学問なので、金融市場の研究をするようになりました。金融は人間が取り引きするので、相互作用が生じます。これは気体の分子運動と同じです。つまり金融市場は、物理現象といえるでしょう。そして中古車もオークション市場を通じて売買されるので、コモディティ(個性が薄れる代わりに価値が普遍的になった商品)の一種だと考えて興味を持ちました。それから「集合知」にも興味があります。多くの人達の意見、つまり総意で民主主義を意味します。これは中古車オークションの価格形成に当てはまり、まさに民主主義です。

清水 オークションは、参加者が互いに協調しながら、価格を高めていきます。その過程では、欲求、戦略、あるいは妥協など、いろいろな意図を経て最終的な落札価格に至ります。公平で民主主義的な営みといえるでしょう。

鈴木 この落札価格がどのくらい合理的なのか、という興味もあります。それから個人的には中古車が好きなんです。私のクルマはマツダの3代目ロードスターで、中古で買いました。

清水 どのように中古車価格を判断したり、変動の予測をするのでしょうか。

鈴木 中古車の買取査定額、落札価格の判断と予測をする時に重要なのが、中古車の流通段階におけるタイムラグ(時間差)です。業者がクルマを買い取ってオークションに出品するまで、書類整理なども行いますから、半月から1ヶ月程度を要します。さらにオークションで落札されてから中古車販売店に並ぶまでにも、整備や商品化などを行うために時間が掛かります。このタイムラグも含めた上で、中古車の落札価格の予測をしています。

清水 中古車は新車と違って、車両による個体差があります。一律の価格ではありませんからね。そこはどのように判断するのでしょうか。

鈴木 それぞれの車種の標準的な状態に落とし込む必要があります。この標準的な状態の価格を基準価格と呼んでいます。この変換が難しいです。通常は人が主観で行っていますが、客観的かつ機械的に基準価格を作れたら良いと思います。そこで基準価格の作成と、予測の研究をしています。グラフで落札価格の変動などを可視化することで誰にでも分かりやすくなります。

清水 基準価格は具体的にどのようなものでしょう。定義を教えてください。

鈴木 中古車の場合、同じ車種とグレードでも、年式、走行距離、車検の残存期間などに違いがあり、それに基づいて価格も異なります。このようなさまざまな中古車に、一定の基準を設けるわけです。例えば走行距離は10000kmを基準にする、という具合です。走行距離が伸びた車両は、減点させて10000kmの状態を作ります。

清水 基準となる走行距離が10000kmとすれば、初度登録されてからの経過年数は1年くらいで、車検の残存期間は2年といった車両が想定されます。そこを基準に、個々の車両について、加点や減点を施すわけですね。

鈴木 このような基準を設けないと、毎月のデータが集まりません。時系列予測の前処理段階で、基準価格の設定は不可欠です。

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清水 基準価格が決まったら、そこから予測をするわけですが、具体的にどのように行うのでしょうか。

鈴木 中古車の価格は時間の経過に応じて変化します。変化の要因は、トレンド、季節、ランダムの3つです。これを過去のデータから割り出して、価格の推移を予測します。この内、トレンドとは価格の下がり方です。基本的に中古車価格は時間の経過に従って下がりますが、その度合いは車種やグレードによって異なります。この部分を過去のデータからトレンドとして分析するわけです。進学シーズンとか、ボーナス時期などの季節性に基づく変動もあり、価格予測の要素になります。こういった内容から、車種ごとに異なる価格変動を予測します。

清水 中古車相場の傾向では、例えばSUVは冬を迎える前に売れ行きが伸びて、価格も上昇傾向になりますからね。季節は価格変動に影響を与えるわけです。ランダムとは何でしょうか。

鈴木 ランダムとは、そのほかの要素です。価格の変動から、トレンドを引いて、さらに季節性も引くと、複雑な動きだけが残ります。そこに法則性を見つけるのが、いわば腕の見せどころです。本当に理由を把握できないランダムもありますが、過去のデータから法則性を見つけ、価格の予測に繋げられます。そこではAIも役立ちます。人間には見つけられない動きをコンピューターで探すわけです。

清水 ランダムにはいろいろな要素がありますが、例を挙げると、どのようになるのでしょう。

鈴木 株価も一見ランダムに見えますが、株を売買する人間心理の癖により法則的なパターンが形成される可能性があります。どのようなパターンかは想像し難いですが、データという実際の結果から法則を導けるのがAIや機械学習の強みだと思います。人間は演繹的に思考しますが(原因→結果)、AIは帰納的に思考します(結果→原因)。どちらも知能ですが、まったく役割が異なる知能です。

清水 中古車の価格は、基本的には時間の経過に伴って低下しますが、この大きな流れの中で、季節によって下落が穏やかになったり大きく下がることもあります。理由の分からないランダムな価格変化も生じます。こういった各車種の価格変動が今後どうなるのか、そこを鈴木教授は過去のデータ分析に基づいて予測しているわけですね。具体的な期間として、どのあたりまで将来を予測できるのですか。

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鈴木 今は1ヶ月先です。長くなるほど難しくなります。先に述べたように、入庫してからオークションに出品するまでに1ヶ月、さらに別の業者がオークションで落札するまでに1ヶ月ほどを要するので、それぞれの業者に合った1ヶ月先の落札価格を予測します。

清水 1ヶ月先の落札価格は、中古車業者が実用的に知りたい情報です。そこを基準価格をベースにして、個体差のある各車両の価格を割り出すわけですね。

鈴木 基準価格の予測は、過去のデータから割り出しやすいですが、それぞれの中古車に当てはめる作業は難しいです。車両によって走行距離、車検の残存期間、オプションパーツの内容などが異なるからです。そういう意味でも、まずは1か月先の予測になります。

清水 お話のとおり、それぞれの車両価格を決める要素として、車検の残存期間、オプションパーツなどが挙げられますが、ほかにどのような要素があるのでしょうか。また具体的にどのような方法で予測していますか。

鈴木 まず重要となるのは機械学習という方法です。新車価格、年式、走行距離、ボディカラーなど、それぞれの車両を特徴づける要素を蓄えて、車両価格の決まり方を学んでおきます。またそれぞれの車両価格から、基準価格に変換することも行います。車両ごとに異なる価格から、走行距離やボディカラーなどの条件を差し引くと、バラツキが小さくなって一定の基準価格が見えてきます。

清水 複数の車両価格から、個体差となる走行距離やボディカラーに応じた加点と減点を行って一定の基準価格を割り出せれば、逆に基準価格から、各車両の価格を予測することも可能になるわけですね。そしてここからは実務的な話になりますが、予測される1ヶ月後の基準価格と各車両ごとの落札価格は、どのような人達に、いかなるメリットを与えるのでしょうか。

鈴木 中古車を流通させたり販売する業者にとってメリットが生じます。例えば我々が落札価格を予測してデータを提供する時に、リアルタイム(その時点)のデータは使えません。そのデータが発表されるまでに、ホームページに掲載したり、印刷に要する時間を取られるからです。そうなると不可避的に、半月後を予測しなければなりません。

清水 情報の内容が刻々と変化する中古車の落札価格や小売価格となれば、確かに正確な予測が求められます。

鈴木 最初のタイムラグは、こういったホームページの掲載や紙媒体の印刷などに要する時間です。さらに中古車がオークションに出品される段階、店頭に並ぶ段階でもタイムラグが生じます。

清水 仕入れてから中古車販売店で売られるようになるまでも、ある程度の時間を要しますからね。中古車の価格には、新車のモデルチェンジも影響します。フルモデルチェンジを行って新型が発売されると、従来型のユーザーが新型に乗り替えて、下取りに出した従来型の中古車流通台数が増えます。そうなると、その車種の中古車価格は全般的に下がります。ただし1ヶ月先の予測になると、フルモデルチェンジによる変動はあまり関係ないかも知れません。

鈴木 今のところ、フルモデルチェンジによる影響は考慮に入れていません。