このエントリーをはてなブックマークに追加

PROTO総研/カーライフ インタビュー

「Connectivity(接続性)」、「Autonomous(自動運転)」、「Shared(共有)」、そして「Electric(電動化)」。自動車業界におけるトレンドの頭文字から造られた「CASE(ケース)」をキーワードに、自動車業界の注目すべき人物にインタビュー。
今回は、2018年6月にトヨタ初のコネクティッドカーとして、全車にDCM(車載通信装置)を搭載して登場したカローラスポーツに注目。チーフエンジニアを務めた小西良樹(こにしよしき)さんを迎え、開発のねらいやコネクティッドカーの提供価値、そしてコネクティッド技術が社会に与える影響など、コネクティッドの現在と未来について話を伺った。

「つながるクルマ」が社会を変える! コネクティッドカーが提供する価値と未来 2019.1.21

ベストセラーカーであるカローラが大胆に生まれ変わった理由

(出演者すべて敬称略)

宗平 カローラは、トヨタはもちろん、日本の自動車にとっても歴史ある世界的ベストセラーカーです。今回そのまとめ役を担当されたということで、色々とご苦労もあったこと思います。

小西 チーフエンジニアという形では初めてなのですが、私自身はこれまで9、10、11、12代目と続けて関わっておりまして、じつはカローラとのつながりは深いんです。

宗平 とはいえ、これまでとは仕事内容がずいぶんと変わったのではないですか?

小西 違いますね(笑)。単一車系でベストセラーを維持し続けるというのは、非常に難しいことです。ですから、時代が求めているであろうことはとにかく盛り込みました。カローラは、1966年に生まれてから今回のモデルで12代目になります。50年以上にわたってお客様に寄り添って成長してきたのです。一方で、ユーザーの平均年齢が60歳から70歳と、非常にご高齢の方が中心となっているという課題がありました。12代目が次の100年に向けて出るトップバッターになることを考えると、これまで支えてくださったお客様を大切にしながらも、やはり若いひとたちの心に響くような商品にしないといけない。ですから、デザインと走り、そしてコネクティッドに価値を最大限に凝縮させたクルマづくりをおこないました。

宗平 大きなコンセプトチェンジが行われたということですね。新型を試乗して感じたのは、これまでトヨタが得意としてきた品質感や静粛性、乗り心地といった側面に加えて、走りの質感、運動性能といった部分でも世界のライバルと比較できるレベルに到達している。新しい時代のスタンダードカーとして強い説得力がありました。

小西 ありがとうございます。
_P0A4060

スタイルや走りも生まれ変わった新型カローラスポーツ

宗平 じつは私が最初に購入したクルマはカローラなんです。スポーツタイプのカローラレビンでした。私が最初にクルマを購入した時期というのは、モータリゼーションがまさに急速に発展していく時期で、カローラのなかでも、スタンダードなセダンだけでなく、スポーティなレビンやワゴンタイプなど、そういう多様性がありました。クルマ選びの楽しさ、クルマの楽しさを教えてくれるのがカローラという存在でした。

小西 それは嬉しいなぁ。おっしゃるとおり、セダンやワゴン、ハッチバックに限らず、お客様が求められるのであれば、カローラベースのSUVが存在してもいいのかもしれません。

宗平 今回、スタイリングも非常に挑戦的です。

小西 カローラというクルマは、日本をはじめ世界のいろいろな地域で販売していますから、それぞれからたくさんのリクエストがあります。北米、南米、アジア、中国、ヨーロッパ、地域によってみなさん言うことが微妙に違う(笑)。解けない連立方程式といいますか、それは歴代カローラのエンジニアが直面する悩みです。両親が大学生に買い与える安全、安心なクルマという地域もあれば、政府の高官が乗るプレステージカーという役割を担うこともあります。ですから、デザインと実用性についてはまさにミリ単位での攻防が繰り広げられました。

宗平 それは大変だ。

小西 しかし、そこで安易に意見を取り入れてもメッセージ性が小さくなってしまう。各国意見交換をしていくなかで共通したのが、スポーティな方向で行きたいとういうことでした。

宗平 今回注目を集めているコネクティッドについては各地域の反応はどうでしたか?

小西 仕向地によって一部利用できる機能は異なるのですが、これから多くの国と地域でコネクティッドは搭載されていきます。全世界でスマートフォンは使われていますし、そういう世の中になってきているのだと実感しています。

コネクティッドカーが提供するこれまでにない価値

TheConnectedDay_01

「THE CONNECTED DAY」でスピーチを行う代表取締役社長 豊田章男(写真:トヨタ)

宗平 トヨタは2018年6月に「THE CONNECTED DAY」という形で新型カローラスポーツと新型クラウンを同時に発表しましたね。クラウンは高級車ですから、コネクティッド機能の標準搭載にも合点がいったのですが、カローラにもという話だったので驚きました。

小西 カローラは、トヨタのスタンダードカーとして、その時代時代で新しい技術を大衆化していくという役割が与えられています。例えば、新しいトヨタセーフティセンス。新しい技術だからこそ、多くのひとびとに使っていただきたい。そういう考えからコネクティッドについても全車に標準装備となりました。

宗平 コネクティッドが搭載されたことで、何が変わるのでしょうか。

20180626_03_01_jp

モビリティサービス・プラットフォームを活用することで、各種サービスが提供される(写真:トヨタ)

 

小西 コネクティッドには、大きく4つのユーザーベネフィットがあると考えています。「安全」、「安心」、「快適」、「便利」です。安全、安心についての機能としては、「ヘルプネット」があります。これは、万が一お客様に衝突事故など緊急を要する事態が発生したときに、エアバッグの作動や加速度センサーといった情報データに基づいて乗員の重症度を推定し、消防に通報、場合によってはドクターヘリが出動します。ワンタッチで、オペレーターが呼び出せますので、そこでも同じように緊急対応を要請できます。そうした安全、安心が、24時間365日サポートされている。

宗平 それはすごいですね。

小西 車両に不具合が起きてしまったときにもコネクティッドは役に立ちます。トラブルが発生してしまった場合、まずナビゲーションの画面にその旨が表示され、オペレーターに接続して、そのまま走行できるのかどうかの判断を聞くことができます。もしも走行できない場合にはレッカーなどの手配を行いますし、走行可能な場合にも、販売店の担当者と入庫の日程などを相談いただき、予約を行えます。

宗平 その場で専門家の意見が聞けるというのはいいですね。故障時に感じる不安が和らぎます。

小西 そうです。また、予約することで、お客様をお待たせする時間も短くなります。さらに、車両のデータから必要な交換部品を前もって用意することができるので、車両をお預かりしてからの時間も短縮できます。これはユーザー側にもメリットですし、販売店としても、ピットの数は限られていますから、業務の効率化につながります。

宗平 なるほど。双方にとってメリットは大きいと。

小西 カローラ店は現在日本国内で約1250店舗、オールトヨタで言えば約4700という数の販売店さんがつながっています。ですから、出かけた先で故障してしまったという場合にも、その街にトヨタのお店があるわけです。お客様に寄り添う形のスピード感というのは、おそらく他社さんにはない強みです。お伝えしたかったのは、お客様とメーカーだけでなく、販売店をも含めたコネクティッドというのが大事なのではないかということです。

宗平 たしかにインターネットがどれだけ発展しても、オンラインだけでは解決できないこともあります。その視点は非常に大切だと思います。

小西 カーライフを楽しく、便利にしてくれる機能としては、「オペレーターサービス」や「LINEマイカーアカウント」があります。運転中、オペレーターに「近くのそば屋をお願いします」とか「駐車場のあるお店をお願いできる?」といった形で依頼することで、オペレーターが店の開いている時間などを調べて案内してくれるというものです。検索された結果はナビへとダウンロードされますので大変便利です。「LINEマイカーアカウント」は、LINEアプリを通じて、対話型でナビの目的地登録やガソリンの残量確認などが行えます。こちらも、すでに6割を超えるユーザーに利用していただいています。

_P0A4093

「LINEマイカーアカウント」によって、対話形式でナビの目的地登録などが行える

宗平 たとえばオペレーターサービスですが、これほど便利なものとなると、ユーザーによっては、頻繁に利用するひとも出てくると思いますし、今後コネクティッド搭載車種が増えてくるとすると、サービスの受け皿が心配になります。

小西 はい。そこはおっしゃるとおりで、現在もキャパシティを拡充させていくべくオフィスを拡充しています。また、対応するオペレーターについても、男女を問わず採用を広げて、ユーザーのニーズをくみ取りながら、対応の質の向上をし続けていきたいと考えています。

宗平 コネクティッド第1弾として登場したカローラとクラウンとで、提供するサービスに一部違いがありますよね。こちらについてはどのような意図があるのでしょうか。またユーザーからの反応はいかがですか。

小西 ここは非常に社内でも議論のあったところです。カローラとクラウンとでは、車両価格に違いがありますので、機能的にも差別化を行なっています。例えばクラウンの方では、オペレーターサービスで、航空券などの予約まで手配をお願いできます。「申し訳ないのだけど、予約していたフライトに間に合わないから、時間を変更してもらいたい」というようなこともできてしまう。

宗平 完全にコンシェルジュサービスですね。

小西 お客様によっては、そういう機能はお金を払ってもいいので、使いたいという声も出ています。ですので、将来的には、オプションとして選択できるようにしなければならないのではという議論もあります。

宗平 コネクティッドが購入理由になったというケースはありますか?

小西 あります。比較的都市部のお客様はコネクティッドを意識しているというデータが出ています。デザインや走りが気に入って、さらにコネクティッドがついているから買うよというケースは結構多いようです。一方で、比較的ご高齢のお客様に多いのですが、すでにご自身の生活パターンが決まっているので、あまり高度なサービスは必要ないという声も当然あります。これは両者別れました。選択制、自由度など、今後の開発にあたりいろいろと学ばせていただいています。

宗平 トヨタがコネクティッドを本格的に導入していくという話を聞いたときに、大変失礼ながら、どのくらいのものができるのだろうかという先入観がありました。ところが、実際に提供されているサービスを拝見すると、実用的というか、本格的にユーザーが利用するであろう内容をシンプルに具現化されているので驚きました。

小西 ありがとうございます。いま、自動車メーカー各社が、つながることによる便利さ、安心感を訴求するようになってきました。今後競争は非常に厳しくなるでしょう。

宗平 これまで、自動車の進化と言えば、燃費がよくなったとか、足まわりがどうとか、そういうハードウェアの進化がメインで、当然クルマ選びの基準もそうしたものが中心になっていました。しかし、こうしてコネクティッドが本格的に普及し始めると、人々のクルマ選びの基準そのものが変わってくるのではないかという予感がします。

小西 いわゆる「クルマの性能」の平均レベルが上がってきたことにより、メカニズム的なものへの興味や欲求はかつてと異なってきたと感じています。もちろん、クルマとしての基本、走る楽しさは変わらず大事ですが、それだけではお客様を満足させることはできない。画面のサイズもグローバル的にも大型化していますし、どのような新しい価値を提供できるかが大切になってくるのかもしれません。本当に大きな曲がり角にきていることを感じています。

衝撃的だったソフトバンクとの提携。その目的と未来

_F4R8698

宗平 コネクティッドカーが増えていくことで、今後クルマ社会にはどのような変化が起きていくのでしょうか。

小西 クルマとクルマ、クルマと社会がつながることで、よりきめ細やかなサービスが受けられるようになるでしょう。たとえば、ワイパーの作動から雨が降っているということもわかりますし、どれだけのクルマがどの方向に向かって移動しているのかもわかります。こうしたデータを活用することで、これから自分が向かう地域の交通情報や天候も事前にわかるようになってくる。

宗平 道路版スマートグリッドのようなイメージですね。御社が提供している「通れた道マップ」は、災害発生時などすでに多くの方の役に立っていますが、これらにも当然いい影響を与えるでしょうね。

小西 グーンとあがります。将来的には点検整備のあり方も変わる可能性があります。たとえばユーザーの使い方に合わせて、走行距離の少ないひとには、点検整備のご案内をそれにあわせたタイミングでご案内するとか、消耗品の交換などについても、より無駄なく、的確なものにすることができるでしょう。

宗平 それでランニングコストが節約できるのだとしたらユーザーベネフィットとしては画期的ですね。エコでもある。IOTの非常にわかりやすく、なおかつ影響の大きな事例となりそうですね。「THE CONNECTED DAY」で豊田社長が「コネクティッド技術を使って、未来のモビリティ社会を皆様と一緒に創造していきたい」とメッセージされていましたが、LINEやソフトバンクとの協業など、従来のトヨタでは考えられない大胆な取り組みに驚きました。

小西 これまでトヨタはモノづくりを得意としてきたわけですが、コネクティッドに代表される技術に関しては、必ずしも自分たちが最先端ではなかったという危機感が社内にありました。スピード感をもって、さらに上を目指すためにも、皆様のご協力が必要です。お客様、我々、様々な企業、そして国が「チームジャパン」としてひとつになって、より良いクルマ、より良いモビリティ社会を作り上げていくイメージです。

1_F4R8717

宗平 オープンイノベーションによって、世界との競争を勝ち抜いていこうと。2018年がコネクティッド元年だとすれば、今後コネクティッドを前提としたクルマづくりになっていくと思われます。とくにユーザーインターフェイスについては、スマートスピーカー的な機能など、大きな変化が期待されます。

小西 そうですね。まさにCASEと密接に関連して進化していくのだと思います。おそらくボタンによる操作系は将来的に減少し、音声による入力や操作が増えてくるでしょう。お客様との対話次第という部分もありますが、スイッチが減ればそのスペースを他の用途に活用できます。例えば将来的に自動運転が進化していくと、自動運転に切り替えた際には、メーターや操作系が収納されて「くつろぎモード」になるとか。もうガラス全面がモニターになってもいいわけですし。

宗平 なるほど。

小西 いまの例えはだいぶ先の話になってしまうかもしれませんが、操作にまつわる要素を最小限に抑えて、スペースをもっと新しいことに活用していくという発想は大事なのかもしれません。

宗平 これまでにも未来的なコンセプトカーをモーターショーなどで見ることができましたが、コネクティッドカーが登場したことによって、そういった未来がより具体的にイメージできるようになった気がします。

20171016_01_03

2017年の東京モーターショーで公開された「TOYOTA Concept-愛i」その機能の一部を搭載した車両で2020年頃の公道実証実験を開始予定(写真:トヨタ)

 

小西 ほんとうに第一歩ですが(笑)。

宗平 まだ達成感はないと。

小西 まだまだ。スマートフォンとの連携という部分では、日本のカローラスポーツで利用できる機能は他の地域に比べて限られているという反省もあります。ここはなるべく早くやらなければいけない。

宗平 現在でも地域によっては、スマートフォンがクルマの鍵として使えます。

小西 安全性をみながら、そういったことにもチャレンジしていきたい。これはコネクティッドに限った話ではなく、サスペンションなどのメカニズム的な部分でもそうです。海外の優秀なメーカーに負けないようなモノづくりをしなくてはいけない。社長をはじめ社員全員がものすごい危機感をもって取り組んでいます。

宗平 お話を伺ってきて、カローラスポーツから、これからの時代のスタンダードを作り上げる、そういう志、強いメッセージ性を感じることができました。後年になって振り返ったときに2018年のカローラスポーツ、そしてクラウンがクルマづくりのターニングポイントだった、そう認識されることになるのかもしれません。本日はありがとうございました。

 

【対談者プロフィール】

小西 良樹
トヨタ自動車株式会社
MS製品企画 ZE チーフエンジニア(取材当時)
CV製品企画 ZB チーフエンジニア(2019年1月~現在)

宗平光弘
株式会社プロトコーポレーション 常務取締役
ITソリューション部門担当。「2018-2019 日本カー・オブ・ザ・イヤー」実行委員。当サイト「PROTO総研/カーライフ」の所長を務める。