このエントリーをはてなブックマークに追加

PROTO総研/カーライフ インタビュー

若手研究者向け研究助成制度PROTO総研「プロト賞」の受賞者である東京大学 大学院 学際情報学府 博士課程 2年の渋谷 遊野(しぶや ゆや)さんが、「日本経済政策学会第74回(2017年度)全国大会」において、「大規模災害が中古車価格に与える影響に関する研究」を発表した。今回は、発表された研究内容の解説とともに、学会での反響や経済学的視座による中古車市場の特徴について、渋谷さんと指導教員である東京大学 大学院 情報学環・学際情報学府の田中教授に話を伺った。

中古車市場のビッグデータ分析から大規模災害での被災地ニーズを導き出す 2017.7.28

PROTO総研「プロト賞」受賞後の研究について

(出演者すべて敬称略)

清水 本日はお忙しいなか、有り難うございます。PROTO総研「プロト賞」で、渋谷さんの「災害ロジスティクスを支える中古車市場の役割に関する研究」を選出させていただき、約半年が経過いたしました。本助成研究について、その後、実際にどのように研究が行われていったのか、プロセスをご説明いただけますでしょうか。また、分析を進められるなかで、様々な発見もあったかと存じます。ご感想も含めてお聞かせください。

渋谷 災害発生時に、支援物資を必要としている被災地の人々に、どのように効率的・効果的に支援物資を届けるかという災害ロジスティクスに着目して研究を進めているなかで、東日本大震災時に中古車需要が高まっていたことに関する報道はみられたものの、どのような特徴を持っているクルマが被災地で必要とされたのかなどの詳細を学術的に明らかにした研究が、私の調べた限りでなかったため、大規模災害が中古車価格に与える影響の研究を始めました。
実際に分析を行った中での発見は、災害後、被災地に於ける中古車のニーズにおいて、車両タイプによって、被災地のみで価格が押しあがっているものや、そうでないものがあること。また、価格が押しあがる時期が車両タイプによって異なることが分かりました。
貴社より当時の中古車の在庫や販売に関する豊富なデータをご提供いただいたおかげで、車両タイプ別ごとに細かく分析することができました。有り難うございました。

学会大会で手堅い評価を得た

「大規模災害が中古車価格に与える影響に関する研究」

1-6644
清水 渋谷さんは、2017年5月27日、28日に開催された「日本経済政策学会第74回(2017年度)全国大会」において、「大規模災害が中古車価格に与える影響に関する研究」を発表されましたが、こちらについてお伺いします。
本発表は、PROTO総研「プロト賞」を受賞したテーマに関連した内容かと存じますが、概要および研究から得られた知見について、ご解説いただけますでしょうか。

渋谷 研究の目的は、災害時に必要性の高いクルマの特徴や車両タイプを明らかにすることでした。そのために、東日本大震災前後の2010年から2012年までの3年分の「グー」への掲載車両データを定量的に実証分析いたしました。分析にあたっては、先行研究のうち地域の価格差に注目している論文に基づきモデルを作成しています。また、被災3県の比較対象として、中国地方5県の掲載車両データを分析しています。これは、被災3県から地理的に離れていること、そして県内総生産と総人口で比較対象として妥当ではないかと判断したからです。
被災3県では、複数の車両タイプで複数ヶ月にわたり2010年比で供給量が増えていましたが、供給量の推移だけでは必ずしも需要側の動向を明らかにできない。そこで、経過年や走行距離といった中古車の特徴で制御したもと、ヘドニックアプローチを用いた地域価格差に着目して分析を行いました。分析対象データは1,641,353件でした。
その結果、東日本大震災発生1ヶ月後から4ヶ月後あたりにかけて、軽RV系、ボンネットバン、軽キャブバン、軽トラックの4タイプが、東北地方の被災が大きかった岩手県、宮城県、福島県の3県で価格が押しあがっていることが確認できました。また、軽トラックは震災発生から1年後の2012年にも価格が押しあがっていることも確認できました。被災3県と中国地方の価格差の検証においては、50万円未満の中古車について、掲載車両数の割合が震災後には全体的に減っていることが確認できました。これは、低価格帯の同性能の中古車が震災前と比べて価格が押し上げられ、結果として50万円以上の中古車の割合が増えた可能性が考えられます。
軽RV系、ボンネットバン、軽キャブバン、軽トラックの4タイプは、「グー」での車両掲載数をみると供給量も震災前より増えていたものがほとんどであったことから、供給量は増えていたもののそれ以上に被災地で需要があり、価格が押しあがっていた可能性があります。
価格が押しあがった車両タイプの特徴は、低価格帯で、比較的積載量があることが分かります。これは低下価格帯の中古車が被災地で求められたとの新聞報道に符合する結果でありましたし、積載量のあるタイプは、物資輸送やがれきの撤去などの災害復旧用途での需要もあった可能性も考えられます。
他方、新聞等では車検付きの中古車が被災地で求められたとの報道が見られましたが、今回の分析の結果からはそのような報道をサポートする結果は得られませんでした。可能性としては、被災者は車検付き車両を求めていたものの、購入時の選択肢が限られていたことも考えられます。
スクリーンショット 2017-07-22 16.31.11
学会大会で発表した際のスライドより。震災を境に価格が押しあがっていることが確認できる

清水 当時の報道や我々が肌感覚として感じていた被災地での需要について、データとして裏付けがなされたということですね。グラフを見ても、価格については、想像していた以上にわかりやすい形で差異を見出すことができます。

田中 貴社から提供していただいたデータ量が多く、月ごとに細かく分けて分析できたことに加え、抑制的にデータを分析してもなお、市場価格への影響について、統計的に有意な差を見出すことができました。過去にオランダで実施された先行研究では、新聞の広告記事として掲載されたデータを基にしていたため、車種も限定的で、期間も年単位であり、微妙な市場の動きを反映、確認することはできていませんでした。これは大きな違いだと考えられます。

清水 「日本経済政策学会 全国大会」ではどのようなコメントがありましたか。

渋谷 貴社からご提供いただいた中古車市場のデータに基づく分析は、震災後の政策対応の研究において、中古車以外の他の財にも適用可能性があるのではないかとのコメントを学会大会でいただきました。また、中古車市場に関するデータの構造や蓄積、その社会的活用方法は、他の財の市場の分析の参考になる先進的なモデルになり得ると考えております。

田中 今回発表を行った、「日本経済政策学会」は、諸国民の経済的な幸福の実現に寄与する政策実現のための経済学の理論的・実証的研究を行う学会で、座長の先生も討論者の先生も、提出論文を丁寧に読んでくださり、厳密なデータに基づいた科学的な観点であると、ポジティブな評価をいただくことができました。いただいたご意見としては、「膨大なデータから被災地が直面するかもしれない問題を浮き彫りにするという研究は、一見地味に見えながらも被災地の復興や支援を考える上で重要な問題提起になった」というものや、「本研究のテーマはグローバルに通じるものであり、世界に向けて発信してください」という声もいただいています。渋谷さんには、ぜひその期待に応えるべく、今回の発表でいただいたご指摘やご質問を反映させた論文を書いていただきたいです。

渋谷 評価していただいたことも大変光栄で嬉しいことでしたが、今後の研究につながる貴重なアドバイスを頂きましたことを感謝しております。一方で、今回の分析には福島のデータが含まれており、岩手や宮城と同質に扱ってよいのかという問題もあります。論文を書くにあたっては、そのあたりも考慮し、いただいたご指摘などを生かしてよりよい論文にするべく、一生懸命取り組んでいるところです。そして、将来的には東日本大震災以外の災害、水害であるとか、2016年の熊本地震も含めた、日本の各地で起きた災害についても取り組みたいと考えております。

_MG_6717
清水 確かに、災害や地域によって震災ニーズが異なるのかどうかは、非常に興味のあるテーマですね。熊本地震も規模の大きな災害でしたが、中古車のニーズについては限定的だったという社内からの報告を受けています。災害ロジスティックを支える中古車の役割という観点からも、有用な取り組みになりそうですね。

渋谷 はい。救援物資を被災者のところへどのようにして届けるのかという、いわゆるラストワンマイル問題の大きな背景のひとつとして、被災地内での車両不足が指摘されています。被災地でどのような車両が求められるのかを特定することで貢献できるのではないかと。まずはそこからアプローチしていきたいです。
2016年には、アメリカ・ニューオリンズで発生した「ハリケーン・カトリーナ(2005年)」で被害を受けた現地調査に行き、研究者と意見交換をしてきました。アメリカでもハリケーンや洪水による被害が増えていて、水害でクルマが使えないという報道がなされていました。現地でも中古車の利用について関心が高まっていましたので、将来的に研究がつながればと感じました。

MG_6735
田中 その関係で、次の研究テーマとして我々が構想しているのが、災害時におけるソーシャルメディアと需給データをつなぎ合わせた分析です。ソーシャルメディア上でやり取りされている内容と実際の需給データとに因果関係を導き出せれば、災害時にどういうものが必要とされるのかが見える可能性もあります。この分析には困難が見込まれますが、貴社からご提供いただいたデータには、地域の詳細な情報が含まれているので、有意義な分析を行うことができないかと考えています。

渋谷 データをどのように分析するのか、まだまだ試行錯誤するところもあります。例えば、東日本大震災で津波の被害を受けた地域を分析するにあたって、中古車販売店の商圏がどのように影響するのかなども考える必要があるのではと考えております。