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PROTO総研/カーライフ インタビュー

「企業物価指数」とは、日本銀行が発表している統計の一つで、金融・経済情勢を示す重要な経済指標である。5年ぶりに改定された「企業物価指数(2015年基準)」に「PROTO総研/カーライフ」を運営するプロトコーポレーションはデータ提供という形で協力している。
今回は、日本銀行 調査統計局 物価統計課長の小山浩史氏のもとを訪れ、「企業物価指数」の役割や、基準改定の詳細について、自動車メディアの視点からインタビューを行った。

新しくなった「企業物価指数」を自動車ビジネスの視点で見る 2017.3.29

安定した金融システムに欠かせない「企業物価指数」

(出演者すべて敬称略)

 

清水 本日はお忙しいなか、ありがとうございます。我々「PROTO総研/カーライフ」は、クルマ情報誌「Goo」、クルマ・ポータルサイト「グーネット」とは違った切り口で、生活者の皆様にわかりやすく情報をお届けすることを目的としたプロトコーポレーションが運営するオウンドメディアでございます。2017年2月から公表されている「企業物価指数(2015年基準)」に、当社が運営する「グーネット」で構築した新車カタログデータ等を加工し提供させていただきました。今回はデータ提供を一つの機会とさせていただき、改めて「企業物価指数」の担う役割について、日本銀行 調査統計局 物価統計課長 小山様にお話を伺わせていただきます。その成り立ちや仕組みを、自動車ビジネスの視点を持ちながら紹介させていただくことで、「企業物価指数」への関心向上の一助となればと考えております。それではまず、日本銀行調査統計局(物価統計課)の役割、目的を教えていただけますでしょうか。

小山 日本銀行は、「物価の安定」を図り、「金融システムの安定」に貢献するという役割を担っております。この役割を実現するためには、金融経済や物価に関する現状の把握とそのための調査、研究活動が不可欠です。日本銀行調査統計局は、こうした金融経済情勢の「調査・分析」に加えて、自らが「統計」を作成する業務を担っております。

調査統計局が作成する統計には、たとえば当課(物価統計課)が作成する「物価関連統計」のほか、経済統計課が作成する「短観(全国企業短期経済観測調査)」や「資金循環」などがあります。当課が作成する物価関連統計には、「企業物価指数」「企業向けサービス価格指数」と、これらのデータを組み替えた「製造業部門別投入・産出物価指数」の三つがあります。データを収集し公表するというと簡単に思われるかもしれませんが、そのプロセスのなかでは、統計の作成方法の検討やヒアリングなどによる正確性の確保、報告者負担の軽減、厳格な情報管理など、様々な工夫を凝らしております。

清水 ありがとうございます。我々も自動車に関するデータを収集し、中古車相場等を社会に公表しておりますので、ご苦労はとてもよく分かります。お話しいただきました「企業物価指数」に、「グーネット」の過去10年間の乗用車の新車標準価格とその品質を表す特性値等を活用していただいたのだと思いますが、この「企業物価指数」の算出の目的等はどのような点にあるのでしょうか。また、これまでの歴史的背景、金融政策なども交えて「企業物価指数」の概要をご説明いただけると有り難いです。

小山 日本銀行が作成・公表する「企業物価指数」は、1897年に公表を開始した「東京卸売物価指数」がルーツとなります。日清戦争ののち、国内でインフレが社会問題となっていたため、景気と物価の情勢を正しく把握したいという問題意識から生まれました。公表開始から今年で120年目となります。「企業物価指数」は、企業間で取引される同一品質の商品の価格を大量かつ継続的に調査することで、市場における商品全体の需給動向を把握する統計です。その結果は、景気動向ひいては金融政策を判断するための材料として用いられております。

また、名目生産額から物価変動に起因する部分を取り除き、実質生産額を算出するためのデフレーターや、企業間での個々の商取引における値決めの参考指標としても利用されております。たとえば「国民経済計算」では、名目GDPから実質GDPを計算するためのデフレーターとして、「企業物価指数」と「企業向けサービス価格指数」を用いています。

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日本銀行が公表している統計は、金融経済や物価を正しく把握するための経済指標として、広く活用されている。

清水 「企業物価指数」が120年以上もの歴史を持つということにとても驚きました。そして、様々な意思決定に大きな影響を与えている重要な指標であるということに、データを提供させていただいた企業として改めて身が引き締まる思いです。さて、「企業物価指数」は、2017年2月に基準改定を実施し、2015年基準指数へ移行したと伺いました。この基準改定の目的や、「企業物価指数」を作成する際のポイントをご説明いただけますでしょうか。

小山 物価指数は、調査商品の陳腐化や、商品ごとのウエイトの実勢からのかい離などから、時間の経過とともに精度が低下します。このため、5年に一度実施する基準改定を機に、調査対象商品を変更し、経済・産業構造の実態をより正確に反映することが1つ目の目的です。また、2つ目には、基準改定のタイミングを捉えて、価格調査方法の改善なども行い、指数精度の向上を図ることがあげられます。具体的には、価格調査における困難の一つに、「品質調整」があります。「企業物価指数」は、品質が一定の商品を継続的に調査し、指数を作成することを原則としています。しかし、消費行動の変化や技術革新等に伴って実際に取引される商品が移り変わった場合などには、調査開始時に定めた調査先企業、調査対象商品、取引先・取引条件等を変更する「調査商品の変更」を行う必要があります。その際、新旧調査商品の価格差を「品質変化による価格変動分」と「純粋な価格変動分」の和として捉え、このうち品質変化による価格変動分を除去し、純粋な価格変動分のみを物価指数に反映させるよう努めています。こうした処理のことを、「品質調整」と称します。「企業物価指数」では、「コスト評価法」や「ヘドニック法」などの手法を用いて品質調整を行っています。

清水 確かに、自動車分野でも、モデルチェンジによって価格が変化することは一般的ですし、同じ商品名で販売されているクルマでも、ボディサイズが大型化するなど商品の内容は大きく変わりますから、旧モデルと新モデルを同列に比べることの難しさはよく理解できます。品質調整の主な方法して採用されているという「コスト評価法」や「ヘドニック法」とは、どのような方法なのでしょうか?

小山 「コスト評価法」とは、具体的には、新商品の品質変化に要したコストを、表面価格差のうち品質変化が寄与した部分とみなし、残りを「純粋な価格変動分」として物価の指数変動に反映させる方法です。しかし、品質向上に要したコストを定量的に把握しようとすると、調査先企業の報告負担の増加を招きかねません。

こうしたなか、調査先企業からの情報に極力依存しない品質調整方法の導入を目指し、2015年基準改定では「ヘドニック法」の適用範囲の拡大に取り組みました。「ヘドニック法」とは、商品間の価格差の一部は諸特性の品質差に起因していると考え、「品質変化による価格変動分」を定量的に算出する方法です。

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「企業物価指数」の社会的意義と、今回の2015年基準改定のポイントについて詳しく解説して頂いた日本銀行 調査統計局 物価統計課長の小山さん。