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PROTO総研/カーライフ インタビュー

衝突被害軽減ブレーキの普及など、新型車の高機能化、知能化がますます進んでいる。その一方で、市場には従来型の中古車が多数流通しているため、今後既存の中古車の価値をどのように高めていくのかが業界として課題となっている。

今回は、カーナビメーカー大手のパイオニア株式会社を迎え、どのような戦略をもって既存車両の価値向上に取り組んでいくのかを聞いた。前編ではアフターマーケットのカーナビとして安全運転支援をどのように行なって行くのかと、ビッグデータを活用した「0次安全」についてお話を伺った。後編では、自動車業界内外から注目が集まる自動運転について、パイオニアがどのような形で関わっていくのか、また自動運転実現への見通しなど将来について取り上げる。

2016年ヒットした最新カーナビにみる ビッグデータの活用と可能性【後編】 2017.1.20

カーナビと自動運転の意外な親和性

(出演者すべて敬称略)

宗平 パイオニアさんは、カーナビ業界のまさに開拓者として、テクノロジーを発展させてきたわけですが。CDからDVDへ、そしてHDDからメモリーナビへといった、言わば目に見える技術の進化と同時に、通信時代にいち早く対応し、これまで10年にわたって膨大な車両の走行データを蓄積してきたというお話。そしてそれを活用することで、カーナビの道案内に「リスク回避」という新しい価値を付与していく「0次安全」のお話、非常に印象的でした。

山下 カーナビを、単純に道案内をする道具として考えれば、どこのメーカーのナビでも、最終的に目的地に連れて行ってくれる時代になったと思います。少し前までは「いかに早く目的地に到着できるか」ということを価値として訴求するカーナビが人気でしたが、今後は先ほど話に出た「リスク回避ルート」のように、道案内の内容が注目される時代がくるのではないでしょうか。

宗平 確かに。私はスマホのナビアプリを使っているのですが、出始めの頃は、到着時刻そのものは早いけれど、結構危険なところを案内されたこともありましたね。

山下 ナビアプリについては、私もユーザーとして利用しています。車載器メーカーである我々の立場から、ナビアプリは「敵」ではないかといわれることがありますが、私はその逆で、「味方」とみなすこともできると思っています。リアルタイム性のある通信型アプリの利点は多いですから、我々の持つ車載機器と連携させて案内精度を高めることや、乗車前にスマホで操作した情報を車載器に連携させる新しい動線も考えられます。結果として業界全体が盛り上がるようにしていきたいですね。

宗平 じつはもう動いてらっしゃるんじゃないですか(笑)

山下 いえいえ(笑)

 

高精度地図データと自立運転を支える「3Dライダー」

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宗平 さて、今日もうひとつテーマとしてお話したかったのが、自動運転についてです。ビッグデータの収集と解析が進んでいくことは、自動運転のような将来技術にもつながっていくのでしょうか。

山下 自動運転の難しいところは、世のなかのクルマすべてが一度に自動運転に変わるわけではないということです。自動運転と自動運転じゃないクルマが混在する状況というのが、現実的には起こり得るでしょう。そうなると、交通量の制御の仕方についても、またちょっと変わってくると思います。いまはすべてのクルマをドライバーが運転しているわけですが、そこに自動運転のクルマが混在する場合、「ヒヤリハット」が起きる場所も変わってくるだろうと予想しています。

宗平 なるほど。たしかに人間の反応とAI(人工知能)やロボットの反応とでは違うでしょうね。2016年の5月に御社が発表されました中期計画のなかで、自動運転に必須となる「3D-LiDAR(3Dライダー)」と地図を合わせて、自動運転社会のなかでなくてはならない会社を目指すと発表されていましたが、現在どのような取り組みをなさっているのですか?

山下 3Dライダーは、対象物を3次元で測定できるセンサーで、これでクルマの周辺をスキャンするんですね。そして、そのデータを地図に落とし込んでいくと、高精度な3次元地図データができます。

 

「3D-LiDAR」を搭載したセンシングイメージ
「3D-LiDAR」を搭載したセンシングイメージ。周囲の障害物などをスキャンする。

宗平 それは国家プロジェクトで動いていましたよね。

山下 おっしゃるとおりです。自動走行用の高精度な3次元デジタル地図のことをダイナミックマップといいますが、これについては内閣府の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の一環として、すでに動き始めています。

宗平 SIPの提唱する「自動走行システム」は、交通事故の低減や、自動走行システムの実現と普及、次世代公共交通システムの実用化を目標・出口戦略としていますが、たしか大規模な実証実験についてもアナウンスがありましたね(平成28年11月15日「自動走行システム」の大規模実証実験の実施について)。首都高速や東名、新東名などのかなりの区間を使って実験が行われるそうですが。

山下 自動運転技術の実現についてはいろいろなベクトルがあって、車両については自動車メーカーさんが担当されています。SIPの活動において我々は、パイオニアの100%子会社であるインクリメントPが参画して、高精度地図の部分をお手伝いしています。

宗平 高精度な3次元地図は自動運転時代には非常に必要な要素ですし、カーナビ自体も自動運転には欠かせないデバイスなのですね。

山下 はい。自動運転のクルマができたとしても、目的地をクルマに告げないと走ってくれないわけですから。そうすると、ここに行きたいという場所をインプットする操作はカーナビそのものですし、カーナビが引いた経路どおりにクルマは走ることになるわけです。その際に、自動運転に最適な経路を走らないと、先ほどのリスクの高いルートの話ではないですが、事故が起きるリスクが高まる。そういうところにはカーナビの役割が残ると考えています。

宗平 なるほど。単純にロボットカーと高精度な地図があるだけではだめで、目的とする安全なクルマ社会を実現するためにも、クオリティの高い道案内が必須となるわけですね。

山下 さらに、地図データの更新速度も課題です。現在の地図更新は1年に数回しか実現できていませんし、地図整備そのものにも時間がかかっています。しかし、今後はカメラや3Dライダーでセンシングしたデータを、リアルタイムにサーバーにアップロードして上書きしていく形になっていくと思います。というのも、自動運転の時代になると、いままでのペースでは情報の更新が間に合わない。新しい道は至る所で出来ていますし、街も変化する。そうすると現実とデータとの間にギャップが生まれてしまう。それは地図のない道を走るのと同じわけですから。

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高精度地図のイメージ。自動運転時代に欠かせない要素だ。

宗平 確かに。その分野については、御社が取り組んでこられたカーナビの走行データ関連で得られたノウハウが役に立ちそうですね。

山下 そうなると思います。先ほど申し上げた3Dライダーですが、パイオニアはもともとレーザーディスクを始めとする光技術を用いた製品を作っていた会社ですから、そこで研究してきた光技術の基盤を持っていたことも関係しています。

宗平 レーザーディスクを国内で市販化したのはパイオニアさんが最初でしたよね。

山下 はい。それから、3Dライダーは地図の作製だけでなく、自動運転のクルマにも必要な技術だと考えております。自動運転では、まわりの障害物を避けて走るために周辺をスキャンすることが必須になりますが、カメラによる画像認識では、正確な距離や形状まで拾えないのです。そのため、3Dライダーで障害物を認識して、それを避けながら走ることを想定しています。現在の地図製作向け計測車両や一部の自動運転試作車両は、屋根の上に大きな計測用のライダーを載せて、それを回転させながら周辺を感知しています。しかし、パイオニアがいま開発しているのは、手のひらに乗るくらいのサイズ、クルマのヘッドライトに埋め込めるくらい小型な3Dライダーです。車両の四隅に搭載できるサイズを目指して開発に取り組んでいます。

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車載レイアウトイメージ。ヘッドライトユニットに収まるサイズを目標に開発中。

宗平 自動運転時代では、パイオニアさんは非常に活躍することになりそうですね。

山下 ぜひそうなりたいですね。ただ、自動運転時代がいつ到来するかについては、業界内でも見立ての違い、温度差がかなりありますね。2020年には実用化させるという自動車メーカーもあれば、アメリカで発表された論文では、「永久にこない」と書かれているものもありました。

宗平 山下さんご自身はどうお考えですか?

山下 高速道路のような、自動車専用道路は比較的早く実現するのではないでしょうか。その一方で、一般道は少し時間がかかりそうですが、たとえば過疎化などで歩行者が少ない場所であれば、決められたエリア内をゆっくりとした速度で自動走行するというのは実現性が高いかもしれませんね。

宗平 リスクに対する取り組みも大事になってくるでしょうし、なにしろ前例のないことですから、まずはやってみて、問題にはその都度対応していく柔軟さが求められると思います。

山下 クルマを所有されている方には、移動の手段としての側面だけでなく、走らせる愉しみ、アクセルを踏む、ハンドルを切って想いのまま操る、そういう嗜好性もあると思いますし、弊社としてもそこは大切にしていきたい。そう考えています。

宗平 そうですね。本日はどうもありがとうございました。

山下 ありがとうございました。

 

【対談者プロフィール】

山下元之 パイオニア株式会社 市販事業部 事業企画部 市販企画部 戦略企画担当部長

宗平光弘 「PROTO総研/カーライフ」所長。株式会社プロトコーポレーション常務取締役