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PROTO総研/カーライフ インタビュー

衝突被害軽減ブレーキの普及など、新型車の高機能化、知能化がますます進んでいる。その一方で、市場には従来型の中古車が多数流通しているため、今後既存の中古車の価値をどのように高めていくのかが業界として課題となっている。今回は、カーナビメーカー大手のパイオニア株式会社を迎え、どのような戦略をもって既存車両の価値向上に取り組んでいくのかを聞いた。
非常に内容の詰まった対談となったため、前編・後編に分けて公開していきたい。前編では、発表以来大きな注目を集めている新型サイバーナビについて、そして今後より重要視されるビッグデータの活用と可能性について取り上げる。

2016年ヒットした最新カーナビにみる ビッグデータの活用と可能性【前編】 2017.1.11

安全運転支援機能で大ヒットとなった新型ナビ

(出演者すべて敬称略)

宗平 パイオニアさんといえば、市販カーナビの雄として、愛用者の多い「カロッツェリア」を思い浮かべます。

山下 弊社の「カロッツェリア」は、自動車向けアフターマーケットブランドとして1986年からすでに30年ほどの歴史がありますが、その前から「ロンサムカーボーイ」というブランド名でもカーステレオを1970年代から発表してまいりました。

宗平 覚えています!「ロンサムカーボーイ」。カーステレオの分野ではまさに一世を風靡していましたね。

山下 ありがとうございます。弊社の製品でエポックメイキングだと言えるのが、1990年に発売した世界初の市販用GPSカーナビ「AVIC-1」です。それ以来、四半世紀にわたってカーナビを世に送り出しているのですが、97年にはDVDをメディアとしたナビを販売し、それまでCD8枚くらいに分割されていた全国の地図データがDVD1枚に収まるようになりました。私がカーナビに関わるようになったのがDVDの第2世代からで、企画業務として携わっておりました。そのあとメディアの進化はHDDを経由し、現在ではメモリータイプに転換していまに至るというのが、弊社の商品の簡単な歴史となります。

宗平 山下さんは「市販企画部 戦略企画担当部長」ということですが、お仕事はマーケットを見ながら商品を企画していくというような立ち位置なのでしょうか。

山下 マーケットの動向を見ることに加え、弊社の「サイバーナビ」はテクノロジー的にも先端を行き、世のなかにまだない新しい価値を提供しておりますから、技術トレンドを押さえながら、それをいち早く盛り込んで商品化するというのが私の仕事です。
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宗平 現在、市販ナビの市況はどうなっているのでしょうか。

山下 だいぶ厳しくはなってきていますね。2000年代の前半くらいまでは市販のカーナビが技術的にも先端を走っていたこともあって非常に好調でしたが、2010年代になってからは自動車メーカーの純正品との技術的な差が縮まってきたこともあって、一時期のようにうなぎ登りに拡大するというよりは「微増」といった状況です。弊社は、アフターマーケット向け、自動車メーカー向け両方の商品開発を行っていますが、他社のなかには、開発の軸足をアフターマーケットから純正品に移すところもでてきました。

宗平 なるほど。私どももクルマの業界ですから興味を持って状況を観察していると、たとえば量販店さんでも以前のようには売れていないのではないのかなと最近の状況については分析しておりました。ところが、先日の報道で御社の「サイバーナビ」が非常に売れている、予約待ちの状況だということを聞き、非常に驚いたわけです。新型「サイバーナビ」では安全運転支援について、新技術を意欲的に取り入れられ大きな話題になっていますね。

山下 スバル アイサイトに代表されるような、制御系を含めた予防安全装備が、クルマに搭載され始めたのが数年前だと思います。そして現在では軽自動車に至るまで同様のシステムが普及し始めました。報道でも「ペダルの踏み間違い」や「高速道路逆走」など交通関係のネガティブな情報が多いなかで、それらを防ぐための技術、機能を求める声も高まっています。しかし、新しいクルマを購入すれば、自動ブレーキなどに代表される予防安全装備をチョイスすることはできますが、みなさん新しいクルマを購入されるわけではございませんし、世のなかにはたくさんの中古車も存在します。

宗平 まさにそこです。予防安全装備に注目が集まる一方で、まだまだ市場にでまわっている中古車にはそういった装備がついていないクルマがたくさんあって、それを求めているユーザーもいるわけです。

山下 パイオニアでは2011年、フロントガラスにカメラをつけて、当時は「AR(拡張現実)」という言い方をしていたのですが、前の景色とナビゲーションの案内を重ねて、よりわかりやすく案内するカーナビを発売しました。

宗平 よく覚えています。当時も先進的な技術だと大いに話題になりましたね。

山下 ありがとうございます。ARナビの発売から5年間、その車載カメラを活用した前のクルマに追突しないようにする予防措置機能や、レーンをまたいだ時にアラートを出す機能など、少しずつ予防安全的な要素を取り入れてきましたが、どちらかというと従来製品はエンターテインメント性に振り幅を大きくしていました。ところが、先ほど申し上げたように世論も動いているため、そのようなユーザーニーズにわかりやすく応えられるように、今回はぎゅっと安心・安全系に方向性を振っています。すでにクルマをお持ちの方や中古車を購入される方、そういった方々に向けて、自動車メーカーさんが用意するシステムではなくても、安心安全なドライブを提供するというコンセプトで商品を企画し、製品化しました。

宗平 お客さんの反応はどうでした?

山下 非常によかったです。エンドユーザーさんもそうですが、流通(カー用品などの小売販売店など)のお客様からも、「顕在化しているニーズに上手くハマる商品だ」ということで受け入れていただきました。

宗平 他メーカーさんの動きはどうなっているのですか?

山下 他社のアプローチは、ドライブレコーダー(ドラレコ)に安心・安全装備を足していくというアプローチがほとんどのように思えます。ドラレコには取り付けが簡易というメリットがあるのですが、あくまでも自分のなかの情報でやりくりをしなければいけない。カーナビならば地図情報や車速信号などクルマ側から情報をもらうことができますので、ドラレコに対してもう少し進んだ安心安全を提供できると考えています。
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アフターマーケットの力で中古車の自動ブレーキ化は可能か?

宗平 我々は長く中古車の情報を取り扱っていくビジネスを展開しており、中古車のステータスを上げるようなアイデア、社内では「中古車の価値向上」という呼び方をしていますが、まさに新型「サイバーナビ」は中古車の価値を向上させる商品だと期待しています。予防安全装備を後付けするというアイデアについては個人的にも色々と考えているのですが、仕組み的なことで言えば、センサーで情報を集約して、最終的には警告音を鳴らすかブレーキをかけるかだと思います。それをワンストップでやっているのが自動車メーカーだと思うのですが、アフターマーケットの商品で制御系まで能動的に働きかける装置というのは実現可能なのでしょうか?

山下 技術的にはおそらくできると思います。しかし、制御まで踏み込むと、安全性をどこまで担保するのかという話になります。自動車メーカーが用意している制御系を第三者がさわった場合、万が一事故をふせげなかったり、制御が誤動作した時の保証をユーザーに提供できない恐れがあります。

宗平 技術よりも、責任の所在的な問題のほうが大きいということですね。

山下 我々としては、命を預かるところまでを第三者的に担保するのは難しい。そこで弊社は、車両制御に行くその前、そもそも制御が必要ない状態を我々が作ることができれば、警告だけでも充分に役にたつと考え、その開発に取り組んでいます。そのはしりとなるのが、「サイバーナビ」の地図データに収録されている「ヒヤリハット地点」です。これは過去に急ブレーキなどが多発している地点に近づくと警告するというもので、「ヒヤリハット」な事象が起きないように、事前に処置しようという考え方に基づいています。現状は「ヒヤリハット地点」というスタティック(静的)な情報しか見ていませんが、車載カメラと画像認識技術を使えば自車がどのような状況にいるかがわかりますよね。それを過去どのようなケースで事故が起こったかという情報と重ね合わせると、「あなたはいまリスクが高まった運転をしています」とドライバーに伝えられるようになります。そうなれば、そもそも車両を制御する必要がない。我々は「0次安全」という言葉を使っていますが、そのような制御する手前で安心安全を担保できる仕組みを提供するために、研究や開発を強力に推進しています。

宗平 なるほど。アクシデントを車両制御で回避するのではなく、アクシデントそのものを発生させないという発想ですね。たしか、パイオニアさんは膨大な走行データをお持ちだと聞いたことがあります。

山下 はい。弊社は2007年からずっと「カープローブデータ」をカーナビから収集しておりまして、現在では走行距離にすると60億キロを超えるデータが蓄積されたまさに「ビッグデータ」を持っています。先ほどの「ヒヤリハット地点」についても、この「カープローブデータ」から導き出された知見が基になっています。

宗平 「ある地点で急ブレーキが多く踏まれているから、ここは要注意だ」というようなことが「カープローブデータ」から分析できるというわけですね。具体的にはどういったデータを取得しているのですか?

山下 走行距離、自車位置、走行速度、センサー状態などの走行履歴やナビを操作した際のデータなどを取得しています。「サイバーナビ」では、1999年以降、携帯電話の通信機能を使って、交通情報や天気予報、ガソリン価格、駐車場情報といった情報サービスをユーザーに提供してきました。その代わりとして、2007年から「カープローブデータ」をユーザーから提供していただくというギブアンドテイクの関係を重ねてきたのです。このような知の共有システムを我々は「スマートループ」と呼んでいます。一部の自動車メーカーでもカープローブサービスを行なっていますが、アフターマーケットではパイオニアだけがこのような取り組みを行なっていまして、それが今になって宝の山になっています。

宗平 なるほど。10年にわたって収集されてきた莫大なビッグデータが、今後の御社の武器になるわけですね。

山下 データだけではなく、それをどう分析するかが大切なのですが、弊社にはそのスペシャリストが存在しています。彼らは、データの山から宝になるデータを見つけ出してくれるのです。もちろん我々もヒントになるようなものを渡すのですが、実際に膨大なデータから有用なものを見つけ出すのは、彼らならではのノウハウです。弊社では、データの取り出しからそれを次のプロセスに生かすところまでのスキームを持っており、その一部分を今回の商品にも使っています。

宗平 現実の状況と過去の事例との因果関係を結びつけて、ドライバーにあらかじめ教えてあげることができると。

山下 たとえば、雨が降っているときに、この先に急ブレーキが踏まれることの多い交差点があるとします。すると雨の日には、ドライバーに対して「このままの速度で走っていると事故を起こす確率が高いですよ」とアナウンスできるわけです。さらに将来的には、危ない場所を回避するルートを提案するところまで行きたい。そうすると、そもそもリスクの低い道を選んで走ることができるようになる。究極の安心・安全なカーナビゲーションとは、そういうことかなと思っています。

宗平 先ほどおっしゃられていた、「0次安全」を実現するためのキーは、ビッグデータとその解析にあるということですね。非常に興味深いお話です。
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後編に続く